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802. フラッシュ干ばつリスクの増大

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802. フラッシュ干ばつリスクの増大

 

国連の世界人口予測によると、世界人口は2050年までに97億人に達することが予測されており、食料安全保障上、食料生産の安定性が課題となっています。

一方、気候変動に伴い、異常気象の頻度が増加する中、極端な干ばつや洪水の食料システム・農業生産性への影響が懸念されています。

多くの人は、極端な異常気象の例として、大雨の後に急激に起こる鉄砲水(Flash Floods)という言葉にはなじみがありそうです。 一方、干ばつの場合は、通常は数年・数十年かけて生じることが多いのですが、近年では数週間から数か月の間に急激に強度を増していく干ばつとして、フラッシュ干ばつ(flash droughts)という現象が増えてきているそうです。急激な蒸散により土壌水分が急速に失われ、作物だけでなく家畜放牧用の草地も大きく影響を受けるにもかかわらず、十分な対策をとる余裕がない社会において大きな経済被害を伴うことが多いとされています。

最近、Communications Earth & Environment誌で公表された論文は、温暖化により、急激な乾燥化を伴うフラッシュ干ばつ現象の頻度が増加し、農業・食料システムに大きな影響を及ぼすとの予測を発表しました。

フラッシュ干ばつの例として、2010年夏にロシア西部で観測された干ばつは、地表が急激に乾燥化したことで人的犠牲を伴う熱波を引き起こし、また野火による大気汚染も問題になりました。冬・春小麦の作付期と重なったことで、ロシア内の小麦生産上位州において最大70%の収量減をもたらしたと伝えられ、2010年8月に政府が輸出規制を行い、世界的な小麦価格の上昇に繋がりました。

論文著者らは、気候変動の全てのシナリオの下、とりわけ化石燃料使用増加の極端な排出シナリオのもとで、フラッシュ干ばつのリスクは世界的に増大し、2015年から2100年にかけて、中でも北米(32%から49%)、欧州(32%から53%)でのリスクの高まりが予想されているとしました。

著者らは、排出削減により、耕作地でのフラッシュ干ばつのリスクを大幅に削減する予測を示し、気候変動アクションの緊急性を訴えました。

 

実際に、昨年、数百年に一度に起こるかどうかの熱波・干ばつに襲われた欧州では、今年も既に旱ばつが報告・予測されており、「次に来るパンデミック」と警戒する議論も伝えられています。


(参考文献)
Christian, J.I., Martin, E.R., Basara, J.B. et al. Global projections of flash drought show increased risk in a warming climate. Commun Earth Environ 4, 165 (2023). https://doi.org/10.1038/s43247-023-00826-1

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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