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1105. 地球システムバウンダリーの定量化

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1105. 地球システムバウンダリーの定量化

 

地球の限界、プラネタリーバウンダリー(Planetary boundaries)が提唱されたのは2009年(Rockström et al. 2009)。その後、2023年には安全で公正な地球システムバウンダリーの概念も提唱されました(Rockström et al. 2023)。本日はそれらに関連し、Lancetプラネタリーヘルス誌に掲載された、ランセットプラネタリーヘルスの地球委員会による最新の報告書(Gupta et al. 2024)をご紹介します。ちなみにRockström氏も共著者として名を連ねています。

地球と人々の健康は危険にさらされています。本委員会では、「安全で公正な地球システムバウンダリー (safe and just Earth-system boundaries: ESBs)」 を定量化し、それをもとに評価しました。

「安全(safe)」であれば、生物物理学的な安定性を長期にわたって維持強化できますが、そうでなければ地球に危険が及びます。「公正(just)」であれば、現在・将来の世代、国、コミュニティに重大な被害をもたらすリスクを最小限に抑えることができますが、そうでなければ人々に危険が及びます。安全と公正のうち、より厳しい基準のほうを、安全で公正な地球システムバウンダリー(ESBs)とします。

また、すべての人に食料・水・エネルギー・インフラへの最低限のアクセスを与えると仮定される「最低限のアクセスレベル(minimum access level)」も定義しています。ESBsと最低限のアクセスレベルとの間の領域を、「安全で公正な回廊(safe and just corridor)」とします。最低限のアクセスレベルがESBsを超える場合は、回廊自体が存在しません。世界がこの回廊の中に入っているのが理想的な状態です。なお回廊内に入ることは必要ですが、回廊内で資源が公正に分配されることも重要です。

生物圏(機能的完全性と自然生態系領域)、気候、栄養循環(リンと窒素)、淡水(地表水と地下水)、エアロゾルの5つの領域について、8項目のESBsが定義されています。そのうち7項目は、すでに限界を超えています。機能的完全性、自然生態系領域、気候、リン、窒素、地表水、地下水です。8番目の大気汚染は、地域レベルでは限界を超えているところが多々あります。

モデリングの結果、社会変革と天然資源利用の再分配がなければ、現在最低限のレベルに達していない人が最低限のレベルに達することが地球システムへの圧力となることがわかりました。また気候の ESBs は、たとえ世界中の皆が最低限で生活したとしても、例えばエネルギーや食料システムの変革がない限り、2050 年までに達成されないと予測されています。したがって、安全で公正な回廊は、根本的な社会変革と技術の変化がなければ実現できません。そして、人類を安全で公正な回廊へと導くシステム変革には、消費の削減と再配分、経済システム・技術・ガバナンスの変更が含まれるとしています。

 

参考文献
Gupta, Joyeeta, et al. "A just world on a safe planet: a Lancet Planetary Health–Earth Commission report on Earth-system boundaries, translations, and transformations." The Lancet Planetary Health (2024). https://doi.org/10.1016/S2542-5196(24)00042-1
Rockström, J., Steffen, W., Noone, K. et al. A safe operating space for humanity. Nature 461, 472–475 (2009). https://doi.org/10.1038/461472a
Rockström, J., Gupta, J., Qin, D. et al. Safe and just Earth system boundaries. Nature 619, 102–111 (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06083-8

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)
 

 

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