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1066. 世界が将来直面するリスクに関する見通しと展望
1066. 世界が将来直面するリスクに関する見通しと展望
不確実性や急激な変化を伴う将来に備えるには、世界が将来直面するリスクに関する見通しと展望をもとに、戦略的かつ制度的に取り組んでいかねばなりません。国連環境計画(UNEP)は、地球の健康と人類の厚生に影響を及ぼしかねない将来の見通しに関する報告書(Navigating New Horizons – A Global Foresight Report on Planetary Health and Human Wellbeing)を公表しました。
報告書は、現在の世界は、既に10年前のコンテクストは異なり、とりわけ技術進歩の速さ・異常気象の頻度増加・地政学的ランドスケープの乱気流、といった変化が激しくなっており、一国の運命を簡単に変えかねない状況に陥っていることを指摘しました。実際、世界は、複合的な危機が拡大・加速および同期化する「ポリクライシス」の淵にあり、気候変動・生物多様性や自然の喪失・環境汚染や廃棄物、という地球に関する3つの危機の加速が、領土や資源をめぐる紛争を引き起こすなど、人類の危機に飛び火するようになっています。
既に過去2年間に目撃したように、COVID-19やロシアのウクライナ侵攻、ガザやスーダンでの紛争、世界的なエネルギー・生活コスト上昇、といったそれぞれ関係ない出来事が現実となり世界全体に波及します。したがって、小さな変化の予兆を見逃すべきではなく、突然の変化に備え、落ち着いた対処ができるよう準備しておくことが重要です。
実際、AIといった革新的技術は環境・生活・生活様式の意思決定に正負双方の影響を及ぼすようになっています。クリーンエネルギーのための鉱物需要が急激に上昇することで、生物多様性や自然・食料や水安全保障・環境汚染に影響を及ぼすことが予想され、その圧力は深海や地球大気圏の外側・宇宙まで及んでいます。宇宙空間での活動の急増は、宇宙ゴミ増加の懸念ももたらしています。
一方、昔ながらの課題として、最新技術や水・食料・燃料・重要インフラへのアクセスを人質・武器化することへの懸念もあります。抗生物質耐性・人獣共通感染症の発現・永久凍土融解による古代ウイルスの復活の兆候は、監視を必要とします。保険にかけることのできないリスクや損失は長期的な発展・貧困撲滅・環境保護の取り組みを台無しにし、化石燃料への補助金増加はエネルギー移行を退行させ、不安によるメンタルヘルス危機が深刻化しており、ありえなそうな危機の兆候を見逃すことで、深刻な変化に直面しかねません。
明るいニュースがあるとすれば、複数の危機のインパクトはしばし絡み合っており、同様のことが解決法についてもあてはまります。報告書は、ポリクライシスの淵にある現状を安定状態にシフトさせるための洞察を幾つか挙げ、よりよい未来を実現するカギとして、世代間の平等および、人々を分断するのではなく結びつける共通の価値観を打ち出す新たな社会契約を提案しました。
(参考文献)
United Nations Environment Programme (2024). Navigating New Horizons: A global foresight report on planetary health and human wellbeing. Nairobi.
https://wedocs.unep.org/20.500.11822/45890
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)