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1039. 環境パフォーマンス指標

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1039. 環境パフォーマンス指標

 

人為的な経済活動は、気候変動や生物多様性喪失の原因となっています。地球の限界・プラネタリーバウンダリーの9領域に関し、すでに6つは限界を超え、7つ目も超えそうな状態にあるといわれています。複合的な要因が絡まる危機に対応するうえで、環境政策に関し、より実践的でデータに基づくアプローチが必要とされています。

イェール大学の研究者が中心となってとりまとめた、2024年環境パフォーマンス指標(The 2024 Environmental Performance Index (EPI) )は、持続可能な開発目標、パリ協定、昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み、といった目標達成に向けたパフォーマンス評価を目指しています。EPIは、国レベルの気候変動対策や環境・エコシステム保全関連の政策に関し、11課題・58指標を用いてパフォーマンスを評価し、180か国をランキングしました。 

 

世界は気候危機に対応できていない

昨年行われたパリ協定目標達成への進展に関する初の世界的な評価では、再生エネルギー敷設に関する記録的な進展はあったものの、温室効果ガス排出量は増加をし続けているとの悲観的な状況が明らかになりました。世界が未知の領域にすすむにつれ、地球の気候システムに不可逆的な変化をもたらしうる臨界点に達するリスクが高まっています。2024年EPIは各国の温室効果ガス排出削減の進展度を測る指標を導入し、評価を行いました。その結果、多くの国で温室効果ガス排出削減は達成されている一方、過去10年間にわたり2050年までにネットゼロ達成に必要な削減トレンドを維持できたのはエストニア、フィンランド・ギリシャ、東チモール、イギリスの5か国のみで、今後これらの国が同様の削減努力を維持するかも不確実性があるとしました。経済大国における削減ペースは遅い(アメリカ)、あるいはまだ増加傾向(中国・インド・ロシア)にありました。さらに、イギリスを除き、2022年EPI報告書において、2050年までにネットゼロ達成見込みとされた国も脱落しています。

 


新たに洗練された生物多様性評価指標

近年、気候変動につづき、最も深刻で不可逆的な環境危機として生物多様性の損失が問題にされています。エコシステムの機能に不可欠である生物多様性の危機は、人類の繁栄を脅かします。これを受け、2024年EPIは保全エリアの効果と拘束力を図る試験的な指標を導入しました。新たな指標は、2030年までに陸域及び海域の30%保全を目標とする昆明・モントリオール世界生物多様性枠組みゴールに沿った保全エリアの拡大について捕捉を試みます。試験的な指標は、多くの国が保全ゴールを達成した一方、多くの保全地域において自然エコシステムの喪失を食い止めることに失敗していることを明らかにしました。2024年EPI分析は、保全エリアに対し十分な資金、およびローカルコミュニティとのパートナーシップのもと、より厳密な規制設定の重要性を示しました。

 


環境パフォーマンスにおけるトレードオフ

EPIスコアは、各国の富の水準と正の相関を示す一方、ある一定の水準を超えると富の増え方は逓減することを示しました。経済開発の段階ごとに、EPIが高い国とそうでない国があり、実際、世界の最貧国の中には世界で最も豊かな国のパフォーマンスを上回る国もあります。この点からみて、富以外の、例えば人間開発への投資・法の支配・規制の質といった指標が環境パフォーマンスをよりよく予測できるようです。

広義の環境問題にわたる数多くの指標を通じ、2024年EPIは環境パフォーマンスの異なる側面において、決定的なトレードオフの存在を明らかにし、完全に持続的な開発に沿っているといえる国はないことを示唆しました。富は安全で清潔な水や安全な廃棄物管理、再生エネルギーの拡大といった投資を可能にしますが、同時に物質消費による環境インパクトとも相関があります。農業における農薬・肥料由来汚染や森林ランドスケープの一体性、破壊的漁法、といったエコシステムのバイタリティ指標で高いスコアをとった国の多くは、単に経済が低迷していたり低開発であったりすることが原因でした。こうしたトレードオフは、国際協力や開発社会における文化的変化の重要性を意味しています。途上国は先進国の工業化がたどった過ちを繰り返さないように、また先進国は消費と環境破壊を切り離し、途上国が持続的開発・生物多様性そのほかすべての人類に資するグローバルコモンズの保全をリープフロッグで実現できるよう支援すべきです。

 

データにあふれた世界における根深いギャップの存在

機械学習やリモセンに関する最新の展開を含め、かつてないペースで環境データが利用できるようになり、2024年EPIにも反映されました。にもかかわらず、政策意思決定に重要なデータにはまだまだギャップも存在します。とりわけ途上国における廃棄物に関する標準化されたデータに関するギャップは、プラスチック汚染危機への政策対応および循環経済の推進の足かせとなっています。また、リモセンによる分析評価が難しい湿地帯・草地そのほか重要なエコシステムに関する信頼に足るデータも課題です。 

 


(参考文献)
Block, S., Emerson, J. W., Esty, D. C., de Sherbinin, A., Wendling, Z. A., et al. (2024). 2024 Environmental Performance Index. New Haven, CT: Yale Center for Environmental Law & Policy. epi.yale.edu  https://epi.yale.edu/


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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