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997. 2023年の温室効果ガス排出量と気候政策

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997. 2023年の温室効果ガス排出量と気候政策

 

2023年は観測史上最も気温の高い年となりました。また、大気中の温室効果ガス濃度も史上最高値を記録したことも報告されています。

一方、4月4日付でNature Reviews Earth & Environment誌で発表された論文は、2023年の世界の温室効果ガス排出量は、史上最高値を記録しつつも、2022年比で0.1%増加にとどまったとしており、今後、排出増加傾向も頭打ちになる可能性を指摘しました。

論文によると、2023年の温室効果ガス排出量は、二酸化炭素換算で35.8Gtでした。COVID-19パンデミック後の2020年、温室効果ガス排出量は前年比で5.8%減と大幅に落ち込みましたが、2021年は5.4%、2022年は1.9%増加していました。2023年、排出量は増加したものの、2022年比で0.1%増と増加ペースは鈍化しており、このままいけば世界の温室効果ガス排出も頭打ちしていくことが予測されます。国別排出量では、インドがEUを抜いて世界で第三位の排出国になりました。排出量トップ5か国は、中国・アメリカ・インド・EU(イギリスを除く)・ロシアで、世界排出量の64%を占めています。

他方、2023年の排出量は、温暖化を1.5℃以下に抑制するためのカーボン・バジェットの残り10-66.7%を費やしたことに等しく、許容される排出量はあと0.5-6年間分しか残っていないことにも相当するそうです。

 

温暖化を1.5℃以下に抑えるというパリ協定達成に向けて温室効果ガス排出量を削減していくには、国際協調への各国のコミットメントがもとめられます。同誌の別論文は、2023年における国別・国際的な気候政策についてとりまとめています。2023年は年末ドバイで開催されたCOP28において脆弱な途上国支援を目的とした「損失と損害(loss and damage)」ファンドの立ち上げなど成果もあったものの、国内での抵抗を受けて気候コミットメントを撤回したり化石燃料支持を続ける国もあるなど、足並みがそろわないこともありました。このような綱引きが続く限り、2030年までの排出削減が困難になります。一方、全ての経済セクターがゼロ排出に移行する必要性の認知の高まりを受け、単なるゴール設定から国内政策策定への具体的な動きも見られました。論文は、2023年の経験を受け、世界的に気候アクションを加速するための、国内および国際的な気候変動政策の一貫性の重要性を訴えました。

 

(参考文献)
Liu, Z., Deng, Z., Davis, S.J. et al. Global carbon emissions in 2023. Nat Rev Earth Environ (2024). https://doi.org/10.1038/s43017-024-00532-2

Nascimento, L., Godinho, C., Kuramochi, T. et al. Climate policy in 2023. Nat Rev Earth Environ (2024). https://doi.org/10.1038/s43017-024-00541-1

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 


 

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