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967. 気候変動対策に対する人々の認識と貢献意欲

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967. 気候変動対策に対する人々の認識と貢献意欲

 

安定的な気候は世界の共通財産であり、気候変動の緩和に向けて世界中の人々の取り組みを必要とします。したがって、気候対策において行動科学の視点から「人的要因」を理解することが重要ですが、気候対策における個人の意欲、社会に対する認識、政府への要望等について、国際的で広範なデータは存在しませんでした。

Nature Climate Change誌にて、世界の温室効果ガス排出の96%、GDPの96%、世界人口の92%に相当する125か国における、約13万人の個人を対象として、気候変動に対する貢献意欲・要望・認識を調査した研究結果が公表されました。その内容を紹介します。

研究は、金銭的な貢献意欲、気候緩和における社会規範の承認、政治・政策の要望、及び他者の貢献意欲についての認識、4つの側面を調査しました。

まず研究は、個人の貢献意欲(Willingness to contribute/WTC)について、気候変動対策に毎月世帯収入の1%を寄付する意欲があるかどうかを尋ねたところ、調査対象者の69%が収入1%相当の寄付に賛成し、26%が反対、6%が0-1%の範囲での寄付を許容する結果となりました。1%の収入寄付貢献意欲は豊かさで上位の国で平均62%だったのに対し、一人当たりGDPで下位の50%の国々では78%と高い値を示しました。国の一人当たりGDPは、国家の気候レジリエンス力と経済力とも相関することから、経済力のある国ほど国民の気候対策への金銭的貢献の意思が低いことが浮き彫りになりました。さらに気温の影響についても言及されています。温暖な気候であるほど貢献意欲は高くてWTCは77%と、寒冷気候の国の平均WTC64%を上回りました。

次に気候変動に対する社会規範の承認です。社会規範の具体例としてグリーンエネルギーへの転換やマイカー規制の支持などが取り込まれています。自分の周り、つまり自国民に対し気候緩和に取り組むべきと回答した人が全体の86%を占めました。調査を実施した中で119か国、対象者の3分の2の人が社会規範を承認する結果となりました。

再生可能エネルギーへの投資、CO2の排出規制やいわゆる炭素税など国の政策に関して、全体の89%が自国政府に今以上の対策を求めると回答しました。政府は人々の要求を認識し、積極的な気候政策を打ち出すことが求められる結果となりました。

最後に他人のWTCに対する認識(信念)についてです。周りが気候対策を支援すると思う人は平均43%いることがわかりました。この結果は収入の1%を寄付する人たちの割合である69%より低くいことから、他者に対する認識と実態にずれが生じていることが判明しました。

以上、研究は、実際に多くの個人が気候対策に積極的な貢献意欲を持つにも関わらず、周囲の意欲を過小評価しているという、世界は多元的な無知状態にあることを明らかにしました。この認識ギャップと個人の条件付き協調行動は、将来の気候変動対策を促す上で課題となります。したがって、世界レベルで気候変動対策への支持に関する認識を高めることは、世界中の人々が一丸となって気候変動対策に取り組むよう推進する上で非常に重要になります。

※    日本は世帯収入1%のWTCで対象者の48.8%(平均69%)が賛成(117位)、国民の大半に対するWTCの認識が8.1%と国際平均より低く、社会規範、政治政策が先に進み、それに対し個人は慎重な姿勢でいることが見受けられました。


(参考文献)
Andre, P., Boneva, T., Chopra, F. et al. Globally representative evidence on the actual and perceived support for climate action. Nat. Clim. Chang. (2024). https://doi.org/10.1038/s41558-024-01925-3

(情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)


 

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