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963. ロシアによるウクライナ侵攻以来の食料システムリスク

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963. ロシアによるウクライナ侵攻以来の食料システムリスク

 

2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻して以来、2年が経とうとしています。2022年の記録的な世界食料価格の高騰は、食料生産が燃料・肥料のグローバルな供給に依存しており、地政学的紛争によるサプライチェーンの寸断が、食料安全保障リスクに直結することを国際社会が再認識するきっかけとなりました。

2021年頃から天然ガスを原料とする化学肥料の価格は上昇傾向にあったところ、ロシアによるウクライナ侵攻により、サプライチェーン寸断の懸念が一気に高まり、燃料・肥料・食料の関係に基づく食料システムのリスクを晒しだしました。ウクライナがヒマワリ油生産輸出国ということで世界油糧作物価格が大きく反応、ロシア・ウクライナが小麦・メイズの主要生産輸出国であることから穀物価格も上昇、さらに肥料輸出国であるロシアとベラルーシへの制裁への懸念、こうした複合的な要因を受け、2022年3-5月期に世界食料価格・エネルギー価格・肥料価格指標を史上最高水準まで押し上げました。

2022年7月に国連とトルコの仲介による黒海穀物合意後、世界食料価格は落ち着きを取り戻してはいますが、時間差で世界各国の食料価格インフレに反映されていき、とくに通貨価値下落局面にある食料輸入国の食料安全保障の脆弱性が高まっています。黒海穀物合意も昨年7月にロシアが離脱し、昨年10月以降は中東での紛争を発端とした紅海地域の情勢不安がサプライチェーン寸断の新たな火種となっています。

一方、地球システムの限界によるリスクも、食料価格動向に影響を及ぼすようになっています。昨年7月、国連事務総長が地球沸騰化時代の到来と表現しましたが、気候変動による異常気象は食料生産に直接的な影響をもたらすだけでなく、燃料・肥料に依存する食料システム自身も気候変動や生物多様性の喪失の原因となっています

食料安全保障にまつわる不確実性を取り除く国際協調と、強靭で持続的な食料システムを構築していくための科学技術イノベーションと行動変容による、全方位的な対策が求められています。
 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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