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822. ロシアの黒海穀物イニシアチブ離脱

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822. ロシアの黒海穀物イニシアチブ離脱

昨年7月に締結されて以来、過去1年間、黒海穀物イニシアチブは、黒海沿岸の3つの港からウクライナ産穀物の世界市場への輸出を可能とし、とりわけ援助を必要とする国の食料安全保障にも貢献してきました。昨年7月22日に始まったイニシアチブは、11月18日に120日間延長されましたが、3月17日と5月18日はロシアの主張で60日間に限り延長されてきました。

このように3度にわたって延長されてきたイニシアチブですが、ロシアはロシア産穀物や肥料輸出の金融・輸送ロジスティクスに関して欧米から制裁が科されているとし、7月17日の再延長に難色を示してきました。これに対し、国連は欧米の制裁に関して規制・民間銀行・保険セクターと交渉し、ロシア農業銀行の子会社を通じて国際的な銀行間通信網(SIWFT)へのアクセスを可能にする具体的な提案を行うなど、仲介に動いてきたと伝えられています。

しかしクリミア大橋への攻撃が報じられた7月17日、ロシアが黒海穀物イニシアチブから離脱することが伝えられました。合意からの離脱は、ウクライナがコントロールする港経由での食料・肥料の輸出を妨げないとする合意からの離脱も意味します。7月18日には早速ロシアがクリミア大橋への攻撃に対する報復としてオデッサ港をドローン攻撃したことが伝えられました。


このイニシアチブの行方は、アフリカなど食料輸入に依存する国々にとって、とりわけ大きな意味を持つとされます。延長期限を前に、国連事務総長やトルコ大統領だけでなく、南アフリカ大統領も途上国を代表してロシアにイニシアチブ維持を要請してきました。プーチン大統領はロシア産肥料・穀物の輸送を可能にするための国連との合意に満足していないと強調しつつも、当初、ロシア関係者は条件が通れば合意への復帰は否定しない姿勢を示していましたが、クリミア橋攻撃をめぐり態度を硬化することも懸念されます。一方、ゼレンスキー大統領は、アフリカのメディアに対し、ロシアの合意離脱でも世界に向けウクライナ産穀物の輸出を継続する意思を伝えたと報道されました。

ロシアによる穀物イニシアチブからの離脱は、食料価格上昇の懸念を再燃させる危険もあります。国連は引き続き、食料安全保障の確保と世界食料価格の安定性のために交渉の努力をしていくことを述べています。


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

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