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806. 黒海穀物イニシアチブのゆくえ

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806. 黒海穀物イニシアチブのゆくえ

昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、主要穀物生産・輸出国からのサプライチェーン寸断への懸念が、2022年の食料価格高騰をもたらしました。昨年7月に締結されて以来、ウクライナ産作物の輸出を保障することで世界食料危機の回避に貢献してきた国連・ロシア・ウクライナ・トルコ間の黒海穀物イニシアチブですが、はじめは4か月、ここ最近は2カ月という期間で、数度にわたって延長されてきました。前回の期限であった5月18日の直前、ロシアは食料肥料輸出に関する補完的な基本合意も合わせ、60日間の延長に合意していますが、これらは7月17日に期限切れとなります。一方、ロシアは、ロシア産穀物や肥料への制裁が課されないという合意が守られていないと主張し、イニシアチブから引き上げることをちらつかせているとも伝えられており、国連が仲介に尽くしていることが伝えられていました。

6月20日、国連事務総長は、黒海穀物イニシアチブのもとで食料・肥料輸出のための検閲の遅れにより、昨年10月に記録した420万トンから昨月の130万トンに落ち込んでいるとし、失望しているとの声明を発表しました。

国連事務総長は、5月2日以降、ロシアの輸出アンモニア出港基地であったオデッサ近くの港(Yuzhny/Pivdennyi)が輸送船の受け入れを行っていないことを指摘、関係国が7月17日後も合意継続のための努力に尽くすことを要請しました。

国連は、イニシアチブの頓挫は、ウクライナの港に出入りする輸送船を制限することで、世界市場における食料供給が落ち込むことを懸念しています。これまでイニシアチブによって輸出された穀物量は3,200万トンに迫りますが、そのうちの一部は、世界食糧計画(WFP)による貧困国への援助物資用穀物も含まれます。

国連は、ウクライナおよびロシアからの収穫が始まるタイミングにおいて、イニシアチブ及びアンモニアを含む食料・肥料輸出に関するロシアとの基本合意の継続の重要性を訴えました。

 

そんな中、6月24日、ウクライナ侵攻に参加していたロシアの民間軍事会社「ワグネル」がロシア南部で反旗を翻して一旦はモスクワへ向けて進軍していたものの、流血を避けるために部隊を引き揚げたと伝えられています。食料サプライチェーンをめぐる地政学的な不確実性は高いままです。

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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