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950. 2月3日は『大豆の日』

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950. 2月3日は『大豆の日』

2月3日は『大豆の日』です。節分の日に大豆をまいて邪気を払い、年齢の数だけ大豆を食べて無病息災を願うことから、節分になることが多い2月3日に設定されています。

大豆は、豆腐・味噌・醤油・納豆などとして食べられ、日本人にとって非常に身近な作物です。世界的にみても、加工食品に加えて食用油の原料のほかタンパク質が豊富なことから家畜飼料として利用されており、最も経済的に重要な作物の1つです。

昨年にひきつづき、大豆の日を機に、今日のPick Upでは、国内外の大豆の事情および国際農研のダイズ研究について紹介します。

 

1. 世界の大豆事情

FAO統計にて2022年の大豆生産量をみると、ブラジルが12,070万トンで1位、2位はアメリカの11,638万トンでした。2018年まではアメリカが1位でしたが、2019年に逆転しました。輸出量に関してはブラジル圧倒的首位で7,893万トンです。2022年は5位のアルゼンチンが輸出を伸ばして3位に。2021年6位だったウルグアイは5位に、3位だったパラグアイは6位になりました。

表1.2022年のダイズ生産(カッコ内は2021年のデータ)
1位 ブラジル   12,070万トン(1位13,493万トン)
2位 アメリカ   11,638万トン(2位12,071万トン)
3位 アルゼンチン  4,386万トン(3位4,622万トン)
4位 中国      2,028万トン(4位1,640万トン)
5位 インド    1,298万トン( 5位1,261万トン)
(FAOSTAT)

表2.2022年のダイズ輸出量(カッコ内は2021年のデータ)
1位 ブラジル   7,893万トン(1位8,611万トン)
2位 アメリカ   5,733万トン(2位5,305万トン)
3位 アルゼンチン  520万トン(5位428万トン)
4位 カナダ      428万トン(4位450万トン)
5位 ウルグアイ    306万トン(6位177万トン)
(FAOSTAT)

 

2. 日本の大豆事情

農林水産省によれば、2022年度の大豆の自給率(概算)は6%です。輸入大豆(94%)の多くは油や飼料として使われており、製油や飼料用などを除いた食品向けの自給率でみると23%になります*。これらのことから、海外で生産される油・飼料向け大豆の安定生産と、食用向け国産大豆の生産性・品質向上の両方が必要なことが分かります。
* 大豆をめぐる事情(令和5年12月農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/attach/pdf/index-3.pdf

 

3. 国際農研のダイズ研究成果

国際農研は国内外の研究機関と研究開発を行っており、大豆の安定生産・生産性向上に向けた研究や、品質を向上させるための遺伝資源や品種改良に用いることが可能なマーカー開発などの研究を行っています。

 

【研究成果1】植物の新たな干ばつストレス応答機構を発見
―「見えない干ばつ」を克服し、作物の大幅増収への道を切り拓く―
国際農研、京都大学、名古屋大学、理化学研究所、東京大学および農研機構の研究チームは、葉のしおれが見られない程度の極めて初期の干ばつにおいて、植物体内のリン酸量が低下し、リン酸欠乏応答が起こることを世界で初めて発見しました。本研究の成果により、干ばつ初期の「見えない干ばつ」に対する植物の応答レベルを定量的に検知することが可能になりました。それにより、作物収量が干ばつによる影響を受ける前に、水分供給を最適化できる画期的な技術の開発への道が切り拓かれました。このように、本研究における畝を用いた干ばつ実験系の開発および「見えない干ばつ」を捉える指標としてのリン酸欠乏応答の発見は、将来の食料安全保障の改善に貢献することが期待されます。

Nagatoshi, Y. et al. (2023) Phosphate starvation response precedes abscisic acid response under progressive mild drought in plants. Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-40773-1
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2023/press202314

 

【研究成果2】脂質含量を減らさずにタンパク質含量を高める野生ダイズ由来遺伝子
人間が消費するタンパク質と脂質の最も重要な供給源の一つであるダイズ種子には、約40%のタンパク質と約20%の脂質が含まれており、世界の植物性タンパク質の71%以上、油の29%以上を供給しています。しかし、一般的に、ダイズのタンパク質含量は脂質含量と負の相関関係を示し、両方の含量が高い品種の開発は困難です。ダイズの祖先種である野生ダイズは、栽培ダイズ品種のタンパク質含量を向上させるために重要な遺伝資源として注目されています。国際農研は、脂質含量を減らさずにタンパク質含量を高める野生ダイズ由来遺伝子の同定に成功しました(Pick Up 915)。

Park, C.et al. (2023) A QTL allele from wild soybean enhances protein content without reducing oil content. Plant Genetic Resources- Characterization and Utilization. 
https://doi.org/10.1017/S1479262123000850
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20231208

 

【研究成果3】高α-トコフェロール含量ダイズ開発によるダイズ機能性の向上
トコフェロールはビタミンEとして知られる脂溶性の抗酸化物質であり、がんや動脈硬化などの生活習慣病や循環器系疾患を予防する生理的な機能を持っています。トコフェロールのうちビタミンE活性が最も高いのはα-トコフェロールです。しかし、ダイズのα-トコフェロール含有率は低く、ダイズの機能性の活用を制限していました。国際農研では、ダイズのトコフェロール生合成経路を制御するDNA領域と候補遺伝子を明らかにすることができました(Pick Up 786)。トコフェロール生合成経路を変化させることで、α-トコフェロール含量を高めたダイズを開発できる可能性があります。

Park, C., et al. Identification of quantitative trait loci and candidate genes controlling the tocopherol synthesis pathway in soybean (Glycine max). Plant Breeding (2023). https://doi.org/10.1111/pbr.13104
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230529

 

【研究成果4】アジアにおけるダイズさび病防除に向けて
主要なダイズ生産地の一つである南米で大きな問題となったダイズさび病は、その起源地であるアジアにおいても栽培の拡大に伴い重要度が増しています。南米では発生から20年、殺菌剤の多用に伴う殺菌剤の有効性の低下が顕著となり、生産コストと環境負荷の増大を招きました。ダイズの増産を目指すバングラデシュでは、近年、ダイズさび病菌の病原性の大きな変化が確認されています(Pick Up 532)。このような状況下、ダイズさび病の発生を早期に予測・診断するとともに、抵抗性品種の導入を中心として殺菌剤や宿主植物の制限などを組み合わせた総合的な防除がアジアにおけるダイズさび病の被害軽減に有効と思われます。

Hossain et al. (2024) Understanding Phakopsora pachyrhizi in soybean: comprehensive insights, threats, and interventions from the Asian perspective. Frontiers in Microbiology 14:1304205. 
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2023.1304205/full
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220510

 

【研究成果5】ダイズさび病抵抗性品種開発に有用なツール
国際農研はパラグアイとアルゼンチンにおいて現地機関と共同でダイズさび病抵抗性品種をリリースしました(Pick Up 562)。また、ウルグアイやメキシコでも抵抗性品種の共同開発を行っています(ウルグアイ;メキシコ)。多くのさび病菌に対して強力な抵抗性を発揮するためには、品種の育成において複数の抵抗性遺伝子を持つ個体の選抜を効果的・効率的に実施する必要があります。既知の7つのさび病抵抗性遺伝子の有無を選抜するためのマーカーを同定しました。この情報を利用してさび病抵抗性品種の開発が加速することが期待されます。

Yamanaka et al. (2023) Genetic mapping of seven kinds of locus for resistance to Asian soybean rust. Plants 12(12):2263. 
https://www.mdpi.com/2223-7747/12/12/2263
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220621

 

4. 国際農研が育成したダイズ品種

「JFNC1」「JFNC2」
https://www.jircas.go.jp/ja/patent/plant/jfnc1_jfnc2
「Doncella INTA-JIRCAS」
https://www.jircas.go.jp/ja/patent/plant/doncella_inta-jircas
「蘇豆27(Sudou27)」
https://www.jircas.go.jp/ja/patent/plant/sudou

 

 

(参考)ダイズ研究に関する記事
710. 2月3日は『大豆の日』
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230203

(文責:情報広報室:金森 紀仁 食料プログラム:中島 一雄 生物資源・利用領域:藤田 泰成・永利 友佳理・許 東河・朴 哲旴・山中 直樹)

 

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