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786. 高α-トコフェロール含量ダイズ開発によるダイズ機能性の向上

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786. 高α-トコフェロール含量ダイズ開発によるダイズ機能性の向上

 

ダイズは、世界の主要なタンパク質と油の供給源です。東アジアや東南アジアで伝統的に広く消費されていますが、近年、栄養補助食品や機能性食品として注目されています。ダイズの機能性と栄養補助食品としての特性は、イソフラボン、ソヤサポニン、カロテノイド、トコフェロールに由来します。ダイズ種子に含まれるこれらの成分の含有量を増やすと、機能性食品としてのダイズの価値が高まることが期待されます。

トコフェロールはビタミンEとして知られる脂溶性の抗酸化物質であり、がんや動脈硬化などの生活習慣病や循環器系疾患を予防する生理的な機能を持っています。トコフェロールは4種類の同族体(α、β、γおよびδ)からなり、これらのうちビタミンE活性が最も高いのはα-トコフェロールです。

ダイズは他の油脂作物に比べて高い総トコフェロール含量を示していますが、α-トコフェロールの含有率が10%未満で、ビタミンE活性が低いγ-トコフェロールの含有率が70%程度を占めています。これは、他の油糧作物に比べて低い数値です(例:ひまわり油のα-トコフェロール含有率は90%)。そのため、ダイズ種子のα-トコフェロール含有率を高めることは、ダイズの活用拡大に大きな効果があります。

国際農研では、異なるトコフェロールの組成を持つ品種間の交雑を通して作られた後代世代のDNA配列を、次世代シーケンサーを用いて解析し、ダイズ種子のトコフェロール生合成に関与する染色体上のDNA領域(量的形質遺伝子座:QTL)を同定しました。そのうち、第14番染色体に存在するQTLクラスターのゲノム領域に、メチル化に関与する遺伝子を原因候補遺伝子として同定しました。さらに新規QTLクラスターの近同質遺伝子系統(NIL)を作成し検証実験をした結果、候補遺伝子は、ダイズのトコフェロール生合成経路のうち、MPBQ-MTを制御する、これまでに確認されていない新規遺伝子であると予測されました。

この研究で同定したトコフェロール生合成経路を制御する遺伝子と、これまでに確認されているα-トコフェロール生合成の促進遺伝子(γ-TMT3など)の集積系統の育成を通じて、トコフェロール生合成経路を改変した、α-トコフェロール含有量が高い高機能性ダイズの開発が期待されます。

 

参考文献:
Park, C., Xu, D. et al. Identification of quantitative trait loci and candidate genes controlling the tocopherol synthesis pathway in soybean (Glycine max). Plant Breeding (2023). https://doi.org/10.1111/pbr.13104

 

(文責:生物資源・利用領域 朴 哲旴)


 

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