842. 持続性に資する自然の多様な価値

世界中の人々が経済的な効用にとどまらない様々な視点で自然に価値を見出しています。一方、人々が自然を評価する視座の多様性は、重要な政治的・経済的意思決定において反映されているとは言えません。Nature誌に掲載された論文および論説は、自然が過小に評価されていることが今日の環境危機の原因であると指摘しました。

自然の価値の捉え方は、世界観や知識システムによって形成されるだけでなく、社会制度構造の基盤となる権力関係にも影響されます。ゆえに、世界の生物多様性危機の解決には、価値の多様性と関係する利害関係についても配慮する必要性があります。

論文は、自然を食料やその他商品の集約的生産に関連する市場価値のみで評価する短期的な利益・経済成長といった価値基準が支配的である状況を問題視し、公正かつ持続的な未来を実現する上で、気候変動適応や文化的アイデンティティにまつわる自然に関する多様な価値観を中心におき、先住民族やローカルコミュニティの価値観も尊重する必要性を説きます。

論文は、2022年に公表された生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム（IPBES）の報告書(Value Assessment report)に沿い、5万点以上の科学的な公表物や政策文書および先住民・ローカルノーレッジ等をとりまとめました。その上で、論文は、生物多様性と気候危機という二つの緊急事態を解決する上で、自然の価値を中心に置いたアプローチ（'values-centered approaches'）を提案しました。その実行には、包括的な価値観の類型や、利用可能な様々な価値評価手法を試し、根本的な社会変容（transformative change）への大きな波及効果をもたらしうる「レバレッジ・ポイント（leverage point）^*」に働きかけていくことが求められます。

^＊レバレッジ・ポイント：システムの中で、より少ないリソースでより大きく持続的な波及効果をもたらす介入場所。

（参考文献）
Pascual, U., Balvanera, P., Anderson, C.B. et al. Diverse values of nature for sustainability. Nature (2023). https://doi.org/10.1038/s41586-023-06406-9

Giulia Sajeva　Assessing the values of nature to promote a sustainable future. Nature, 09 August 2023,　doi: https://doi.org/10.1038/d41586-023-02487-8

（文責：情報プログラム　飯山みゆき）