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209. 自然界が人類にもたらす便益

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自然界が人類にもたらす貢献を理解し、その便益をモニタリングすることは、地球システムを効率的・公平・持続的に管理する能力改善の上で極めて重要です。
PNAS誌で公表された論文は、過去50年の環境劣化の進行が人類に与える影響についてレビューを行った結果を発表しました。


生物多様性や自然のエコシステム機能の減少は人々をリスクにさらします。例えば受粉を仲介する生物の減少や土壌生産性の低下、海岸エコシステム劣化に伴う洪水や嵐に対する被害への脆弱性を通じ、作物収量が低減するケースもあります。著者らは過去50年間の文献をレビューし、水質汚染の規制機能など、人々の生活の質に対する自然環境条件の変化のインパクトを整理しました。農業生産と商品作物量が増加する中、評価対象となった環境による多くの物質的・非物質的・調整機能的な貢献は減少しました。環境劣化は人々の生活の質に負の影響を及ぼします。論文は、国・地域・所得階層・民族・社会グループによって、環境劣化の影響や社会的適応能力に差があることを指摘しました。

生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services: IPBES)が2019年に公表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模アセスメント報告書[Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services]」によると、生物多様性の減少は人間活動に起因するものであり、影響の大きいものから順に、(1)土地及び海洋の利用の変化、(2)生物有機体の直接利用、(3)気候変動、(4)汚染、(5)侵略的外来種が要因と考えられており、農業の在り方が大きくかかわっています。途上国は、生物多様性のホットスポットであると同時に、生物多様性の喪失・環境劣化に対する社会的適応能力も残念ながら十分ではありません。国際農研は、開発途上国における技術開発を通じて、持続的な農林水産業と生物多様性保全の両立を目指しています。


参考文献
Kate A. Brauman et al, Global trends in nature's contributions to people, Proceedings of the National Academy of Sciences (2020). DOI: 10.1073/pnas.2010473117
IPBES (2020) Workshop Report on Biodiversity and Pandemics of the Intergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services, IPBES secretariat, Bonn, Germany, DOI:10.5281/zenodo.4147317


(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

 

追記:本日1月8日午後より、国際農研HPのデータ移行にともない、HPへの記事のアップロードの再開が1月13日午後に予定されております。このためPick Upは数日お休みします。

 

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