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812. 自然への投資は公平性および経済的な利益をもたらす

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812. 自然への投資は公平性および経済的な利益をもたらす

持続可能な開発は、経済成長と自然環境保全を同時に実現させながら、その状態を長期的に維持していくことが求められます。しかし、経済成長と自然環境保全はしばしトレードオフの関係にあると考えられてきました。というのも、環境課題の解決は多額の投資を要しながら、短期的には収入、雇用、競争力の低下が懸念されることが多く、自然環境は経済成長と負の相関関係にあると議論されてきました。記憶に新しい例として、2020年初頭におけるCOVID-19パンデミックを契機とする経済活動の低迷は、一時的に大気汚染の改善と温室効果ガス排出の減少をもたらしました。しかし自然環境と人間社会の複雑な相関関係を考慮すれば、特に長期的な観点からみて、自然環境保全への投資は経済に大きな配当・メリットをもたらすはずです。

今回は、PNAS誌で公表された、自然への投資と経済利益の関係に関する論文を紹介します。

著者らは、世界経済モデル(Global Trade Analysis Project (GTAP)-computable general equilibrium (CGE) model of the economy)と生態系サービスを総合的評価するモデル(InVESTモデル)を統合したモデル(GTAP-InVEST)を開発し、市場および政策の変化とエコシステムサービスの変化の相互作用の影響を評価しました。論文は、自然環境の劣化は経済に大きな喪失をもたらし、とりわけ低所得国への打撃が大きいこと、逆に、自然環境保護に投資をすることで、経済的に大きな便益が見込まれ、とりわけ低所得国の人々への恩恵が期待できることを示しました。

より具体的には、論文は、統合されたモデルを用いることで、まずマクロ経済の動向と政策(農業補助金廃止、農業研究開発投資増加、生態系サービスに対する国家間・国内の支払い、等)が、生態系サービスを提供する地域の自然環境(野生の花粉媒介者による作物受粉、森林からの木材供給、海洋漁業由来の食料供給、炭素隔離、の4つのサービス)にどのような影響を及ぼすかを分析しました。次に特定の生態系サービスの変化が、GDP、雇用、貿易など、マクロ経済指標にどの程度の影響を及ぼすかを分析しました。著者らは、自然環境保護への投資は、従来通り(business-as-usual)の場合と比較して、2014年米ドル換算で年間1000億~3500億ドルの便益をもたらし、中でも低所得国が最大の恩恵を受けると推計しました。

著者らは、今回の推計が一部の生態系サービスしか対象としていないことに言及し、生態学的な転換点の可能性や自然資本枯渇に対する経済的な代替選択肢の消失を踏まえれば、そうした生態系サービスの喪失を回避する投資の経済的便益をより詳細に捉えるモデルの向上が必要であり、環境に関する情報を経済分析や政策に反映させることが重要であることを訴えました。とりわけ、貧困国の住民が最大の恩恵を受けることを踏まえれば、公正面でも潜在的に大きな便益が想定されます。


(参考文献)
Johnson, Justin Andrew et al, Investing in nature can improve equity and economic returns, Proceedings of the National Academy of Sciences (2023). https://doi.org/10.1073/pnas.2220401120


(文責:情報プログラム トモルソロンゴ、飯山みゆき)

 

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