Pick Up

210. 新型コロナウイルスの影響に関する費用便益分析

関連プログラム
情報収集分析

 

ソーシャルディスタンシング(社会的距離)は、人の命を救うと同時に、経済活動の低下などにより社会全体に大きなコストを課します。新型コロナウイルスへの対応策では、さまざまなことを天秤にかけて検討しなければなりません。費用便益分析(cost-benefit analysis)では、影響を軽減するための戦略の機会費用を分析し、費用対効果を評価します。ここではガーナの例を紹介します。


シンクタンクであるコペンハーゲンコンセンサスセンターの報告書[1]によると、9か月間社会的距離をとることで、今後5年間の死者数を25200人削減する可能性があります。しかし同時に、保健サービスへのアクセス悪化や栄養不良、メンタルへの影響などにより、5年間で9200人が死亡する可能性があります。そのため、社会的距離をとることで回避された死亡者の総数は16000人と見積もられます。便益は約83億セディ(約1500億円)となります。

一方、9か月間学校を閉鎖すると、その間720万人の子どもが教育と学校給食を得られなくなります。生産性が低下し、今後50年の収入損失を現在価値で換算すると学校閉鎖の社会的費用は約149億セディとなります。社会的距離の便益83億セディを考えても、学校閉鎖は66億セディの損失となります。移動や生活の制限はさらにGDP損失を拡大し、今後30年間のGDP損失の推定現在価値は2620億セディと見積もられました。

この報告書に基づくと、ガーナでは、社会的距離をとることによるメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいとのことです。同様の結果はマラウイ[2]、ナイジェリア[3]などでも報告されており、制限や学校閉鎖をこれ以上拡大させないほうがよいとしています。その一方で、アメリカでの社会的距離のメリットを示した論文もあります[4]。ロンボルグ博士によると[5]、分析における仮定の違いもありますが、豊かな国に比べて貧しい国では、社会的距離の恩恵を受ける高齢者が比較的少なく、病院の収容能力がそもそも低く、コロナ以外の困難も多いため、違いが生じるのではとのことです。

参考文献
[1] Copenhagen Consensus Center. A Rapid Cost-Benefit Analysis of Moderate Social Distancing in Response to the COVID-19 Pandemic in Ghana.
https://www.copenhagenconsensus.com/sites/default/files/covid_brief_for…
accessed on Jan 7, 2021.

[2] National Planning Commission. Medium and long-term impacts of a moderate lockdown (social restrictions) in response to the COVID-19 pandemic in Malawi: A rapid cost-benefit analysis.  https://npc.mw/wp-content/uploads/2020/07/NPC-COVID-cost-benefit-analys…
accessed on Jan 7, 2021.

[3] Copenhagen Consensus Center. A Rapid Cost-Benefit Analysis of Moderate Social Distancing in Response to the COVID-19 Pandemic in Nigeria.
https://www.copenhagenconsensus.com/sites/default/files/covid_brief_for…
accessed on Jan 7, 2021.

[4] Thunström et al. The Benefits and Costs of Using Social Distancing to Flatten the Curve for COVID-19h. Journal of Benefit-Cost Analysis, 11(2), 179-195. doi:10.1017/bca.2020.12

[5] Bjorn Lomborg. Cost, Benefits of Fighting COVID-19
https://www.linkedin.com/pulse/cost-benefits-fighting-covid-19-bjorn-lo…
accessed on Jan 7, 2021.

(文責:研究戦略室 白鳥佐紀子)
 

関連するページ