819. 世界の飢餓の現状と見通し

国連食糧農業機関（FAO）と国連世界食糧計画(WFP)が共同で公表した飢餓ホットスポット（Hunger hotspots）早期警告報告書によると、2023年6~11月の期間、世界で22か国、18の飢餓ホットスポットが生じ、対象地域の人々が深刻な食料不安に直面する恐れがあります。

報告書は飢餓ホットスポットを引き起こす主な要因として以下を挙げ、こうした要因を抱える地域への早期の支援拡大を呼び掛けています。

1.    紛争（Conflict and insecurity）
2.    強制移動（Displacement）
3.    干ばつ（Dry conditions）
4.    経済危機（Economic shocks）
5.    洪水（Flood）
6.    政情不安定（Political instability/unrest）
7.    熱帯サイクローン（Tropical cyclone）

上記を大きく分けると、懸念すべきリスクは、紛争・経済危機・自然災害の３種類あると言えます。

地域住民の強制移動や政治的不安定を含む紛争リスクによって、人々は直接攻撃されたり、攻撃の可能性から逃げたり、移動制限や行政サービスへのアクセス困難に直面するため、農業活動や商業活動を含む生計が混乱します。

経済危機リスクにおいては、先進国等が金融引締めを実施する中、世界経済において信用コストが上昇する結果、2023年も世界経済の減速が予想されています。ホットスポットを抱える国の多くは外貨準備が低く輸入が制限されるため、食料価格の緩和策も十分な効果を示さず、国内の食料価格は高止まりしています。

大雨、熱帯暴風雨や低気圧、洪水、干ばつ、気候変動による異常気象などの自然災害リスクは、依然として大きな要因となっています。先日のPick Upでも取り上げた今年後半に高い確率で予測されるエルニーニョ現象の発生がいくつかの飢餓ホットスポットに重大な影響を与えると懸念されています。 

この報告書は、ホットスポットを抱える国ごとに緊急対応への優先事項、および人道的ニーズに対応する予防的活動を推奨し、新たな課題が発現する前に短期的な保護的介入の実施を提案しています。

以上の議論は、飢餓と紛争は密接に結びついていることを示唆しています。実際に、飢餓のホットスポットは、アフガニスタン、ブルキナファソ、エチオピア、マリ、スーダン、シリアなど、武力紛争が生じているという共通項があります。7月4日に公表されたNature誌の論説は、飢餓と飢饉は偶発的に起こるのではなく、人為的に引き起こされるものだと論じました。

論説は、国連による紛争と食料安全保障に関する特別報告にも言及し、現在、紛争が飢餓の直接的な原因となっており、2030年までに飢餓を撲滅するというSDGs達成に向けた進展を阻む最大の要因であると指摘しています。逆に言えば、食料を盾とした紛争を止めることなしに、SDGsの達成は見込めません。　

さらに、低所得国は、COVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻がもたらした国際燃料・食料価格の上昇がもたらす国内食料価格インフレにも影響を受けています。

そして7月12日、国連機関（FAO, IFAD, UNICEF, WFP, WHO）による「世界の食料安全保障と栄養の現状（The State of Food Security and Nutrition in the World Report: SOFI）」2023年版が公表されました。　

報告書によると、2022年、7.83億人（6.91 – 7.83億人）の人々が飢餓に直面していたと推計され、COVID-19パンデミック前の2019年に比べて1.22億人増加しました。

（参考文献）
WFP and FAO. 2023. Hunger Hotspots. FAO‑WFP early warnings on acute food insecurity, June 2023 to November 2023 outlook. Rome. 
https://doi.org/10.4060/cc6206en

Nature 619, 8 (2023) EDITORIAL 04 July 2023. Hunger and famine are not accidents — they are created by the actions of people: https://doi.org/10.1038/d41586-023-02207-2

（文責：情報プログラム　トモルソロンゴ、飯山みゆき）