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795. リン鉱石由来の肥料を有機物施用や穀物・マメ科植物と組み合わせることで、耕作地の土壌動物相を改善できる
795. リン鉱石由来の肥料を有機物施用や穀物・マメ科植物と組み合わせることで、耕作地の土壌動物相を改善できる
ブルキナファソを含むサハラ以南アフリカ(サブサハラアフリカ)では、土壌のリン欠乏が作物生産の主要な制約の一つとなっています。この地域で作物の収穫量を増やし、農家の生活を維持するためには、各作期に最適な肥料を施用する必要があります。しかし、小規模農家にとって化学肥料は高価であり、近年、肥料価格はさらに上昇し続けているため、利用が著しく困難です。国際農研ではブルキナファソ環境農業研究所(INERA)と共同で、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)のもと、ブルキナファソの低品位リン鉱石の農業的利用を促進するための様々なアプローチを検討しました。その一つが、電気炉を用いて900~1000℃でリン鉱石を焼成し肥料化する方法です(Nakamura et al., 2015)。得られた焼成リンは高いリン溶解度を示し、ブルキナファソの農業生態系において、ブルキナファソ産リン鉱石を直接施用するよりも優れた施肥効果を有することが示されています。
しかし、この肥料については、有機物や他のリン源との組み合わせが土壌の健康(Soil Health)にどのような影響を与えるかを評価することが必要です。近年、作物生産を維持するためには、土壌が物理的、化学的、生物学的に健全であるべきだという認識が広まり、Soil Healthについての関心が高まっています。Soil Healthの生物学的に重要な観点の一つとして、土壌構造や栄養循環に影響を与え、土壌水、通気、排水を調節している多様な大型土壌動物(マクロファウナ;体幅>2mm;ミミズ、ヤスデ、シロアリ、クモなど)の存在があります。
国際農研では、リン鉱石または焼成リンを畑に施用した際、ソルガムおよびササゲ圃場における大型土壌動物の存在量および多様性は増加せず、一方、害もないことを示しました。また、大型土壌動物の集団は多くの種、科、目から構成されていました。特に注目すべき点は、リン鉱石由来の肥料を施用すると、栽培2年目に両圃場の大型土壌動物の存在量と多様性が増加することです。このような大型土壌動物の増加は、耕作地における大型土壌動物の生息密度を維持するために必要な、降雨量によって部分的に説明される可能性もあります。この研究で得られた知見は、各種のリン鉱石由来の肥料を有機物施用や穀物・マメ科植物と組み合わせることで、耕作地の土壌動物相を改善できることを示唆しています。本研究成果は、2023年にInternational Journal of Innovation and Applied Studiesに掲載されました。
(参考文献)
Anderson, J.M., and Ingram J.S.I. (1993). Tropical Soil Biology and Fertility: A Handbook of Methods. CABI Publication, UK., pp. 68‑70.
Nakamura, S., Imai, T., Toriyama, K., Tobita, S., Matsunaga, R., Fukuda, M., and Nagumo, F. (2015). Solubilization of Burkina Faso phosphate rock through calcination method. Japanese Journal of Soil Science and Plant Nutrition, 86(6), 534–538.
Traore, B., Traore, M., Nacro, H.B., Sarr, P.S., Ouatara, B. (2023). Short-term effect of calcined phosphate rock on soil macrofauna diversity and abundance in lixisol in a semi-arid area of Burkina Faso. International Journal of Innovation and Applied Studies, 39 (2), 655-666.
(文責:生産環境・畜産領域 パパ サール サリオウ、中村 智史、食料プログラム 中島 一雄)