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694. 今年は国際雑穀(ミレット)年

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● 今年は国際雑穀(ミレット)年

 国連は2023年を国際雑穀(ミレット)年と定めました。ミレットは主要な穀物に比べてやせた土地や乾燥した土地でも生育でき、気候の変化にも強い作物です。さらに、ミレットは、その高い栄養価から「栄養穀物(Nutri-Cereals)」とも呼ばれ、注目されています。

 

● ミレット(Millet)って何?

 ミレットは、イネ科作物のうち、小さい穎果をつけるヒエ、アワ、キビなどの雑穀類の総称です。ミレットはビタミンや鉄・カルシウムなどのミネラルが豊富で、タンパク質や食物繊維、レジスタントスターチ(難消化性デンプン)が多く含まれ、糖尿病の予防や管理にも役立つとされています。

 

● どこで栽培されているの?

 ミレットは、小麦、米、トウモロコシなどの穀物と比較して、降雨量が少なく非灌漑条件下でも栽培することが可能なため、主にアジアやアフリカの乾燥地帯で栽培されており、乾燥地及び半乾燥地など不良環境における主要な食物資源となっています。 FAO統計で2021年のミレット*の生産量を見ると、アジアが世界の56%、アフリカが40%となっており、この2地域でほぼすべてを占めています。国別に生産量を見てみると、インドが1,321万トンで世界の44%、中国が270万トン(9%)、ニジェールが215万トン(7%)、と続いています。

ちなみに、日本の生産量は250トンでした。

 

表 ミレットの生産量(単位万トン) FAOSTATより
 インド     1,321
 中国      270
 ニジェール   215
 ナイジェリア  192
 スーダン    150
 マリ      149
 セネガル    104

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 ・

 日本      0.025

*統計はミレット(Pearl millet, Finger millet, Proso/Common millet, Foxtail millet, Barnyard millet, Little millet, Kodo millet)の総量です。

 

● 国際雑穀(ミレット)年

 2021年3月の第75回国連総会で、2023年を「国際雑穀(ミレット)年」とすることが宣言されました。国際雑穀(ミレット)年は、ミレットの栄養や健康への利点、そして気候変動の中での栽培適性についての認識を高め、政策に結び付ける機会となるとしています。
 国連は、2016年から2025年までを「栄養のための行動の10年」と宣言しています。その間、2016年『国際マメ年』や2021年『国際果実野菜年』などを制定して、世界で飢餓をなくし、栄養不良を根絶する行動を活性化させ、より健康で持続可能な食事にアクセスできるよう取り組んでいます。今年の『国際雑穀(ミレット)年』は、栄養、農業、気候の課題に対応するための雑穀の役割を認識し、雑穀の気候耐性と栄養面での利点に対する認識を高め、雑穀の持続可能な生産と消費の増加を通じて、多様でバランスのとれた健康な食生活を提唱するとしています。

 

● 国際農研の雑穀研究

 国際農研ではこれまで西アフリカでミレットを対象にした栽培技術の研究を実施していますが、ミレットの新しい機能についての共同研究も検討されています。それは主要な雑穀の1つであるソルガム**の先行研究があるからです。
 ソルガムの根から浸出する化学物質によって、土壌微生物がアンモニアを硝酸に変換することを抑えることを発見しました。この機能を生物的硝化抑制(Biological Nitrification Inhibition, BNI)と言います。生物的硝化抑制によって、硝酸による地下水汚染や温室効果ガスの発生が抑えられるため、世界中が注目しています。また、国際農研は生物的硝化抑制の機能をコムギにも持たせることに成功しており、2021年農業技術10大ニュースにも選定されています。

** ソルガムはアフリカ原産で、エジプトでは紀元前約3世紀頃から栽培され始め、インドやアジアなど広範囲で栽培されています。日本で『モロコシ』や『タカキビ』と呼ばれています。

 

 

 雑穀はまた、栄養改善と生活向上に資するローカル・ランドスケープ由来の食の1つでもあります。このたび、昨年12月12日、ハイブリッド・セミナー「栄養改善と生活向上に資するローカル・ランドスケープ由来の食利用を促進するための科学と伝統知の適用」の様子を国際農研YouTubeサイトにて公表しました。

当日見逃した方も、是非ご覧になってください。

Part1: 

 

Part2: 

 

(参考)
International Year of Millets (IYM 2023)
https://www.fao.org/millets-2023/en
International Year of Millets 2023 - Communication handbook and toolkit
https://www.fao.org/3/cc3253en/cc3253en.pdf
2021年農業技術10大ニュースに「BNI強化コムギの開発」が選定
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2021/r20211224
ソルガムの根の生物的硝化抑制(BNI)物質の同定と特性
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2012_04
ソルゴレオンはソルガムの重要な生物的硝化抑制物質の一つである
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2014_a07

 

(文責:情報広報室 金森 紀仁)


 

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