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626. 市街地のビルに飛来した昆虫から生物多様性や気候変動を考える

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626. 市街地のビルに飛来した昆虫から生物多様性や気候変動を考える

今日は国際農研のあるつくばの身近な問題から気候変動・生物多様性を考えてみたいと思います。

 

4月のはじめにつくば市中心部のビルの階段で見慣れない昆虫を捕まえました。この虫はアカマダラハナムグリと言って、5,60年前までは普通に見つかる甲虫でした。しかし、最近は急激に数が減少し、獲れたというだけでニュースになるくらいで、つくば市での記録は今回を含めてたった2例しかありません。では、なぜこれほどまで数が減ってしまったのでしょうか。2000年代に入ってからアカマダラハナムグリの謎に包まれた生態が明らかになりつつあり、ようやく減少してしまった理由も分かってきました。

実はアカマダラハナムグリが卵を産み成長するのは主にオオタカなど猛禽類の巣の中だったのです。卵からかえった幼虫は、雛が食べ残した肉や堆積した腐食物などをこっそり食べて成長しているようです。つまり、アカマダラハナムグリの幼虫にとって、猛禽類の巣は他の鳥などの天敵から身を隠せ、さらにごちそうにもありつける絶好の隠れ家になっているのです。長い進化の歴史の中でアカマダラハナムグリはこのような面白い生き方を身に着けて生き延びてきたと考えられます。しかし、私たち人間活動による森林開発によって猛禽類の生息環境が悪化し、その生息数が急速に減少したため、アカマダラハナムグリも共倒れになって多くの地域から姿を消してしまったのです。幸いなことに、つくば市の周辺ではオオタカなどの住む森を守る取り組みがすすめられ、猛禽類の生息環境が維持されつつあります。アカマダラハナムグリもこうした周辺地域の森でなんとか生き延び、飛んできたと思われます。

今回見つけたアカマダラハナムグリですが、捕まえた時期がこれまでの記録と照らし合わせるとかなり早いことも分かりました。アカマダラハナムグリの成虫は、冬の間は冬眠し、春になり気温が上がってくると、餌の樹液を求めて巣から飛び立ちます。つくばでも気候変動により気温が年々上昇し、今年の春も平年よりも高温になりました。捕らえた日の気温は27度を超え、その前の1週間も夏日を記録する日が多い異常気象だったことから、このアカマダラハナムグリも樹液の出る季節になったと勘違いをして飛び立ってしまった可能性があります。こうした異常気象による行動パターンの変化は、昆虫など多くの生き物の生存にとって様々な影響もあります。例えば、冬眠から早く目覚めすぎて餌を探し始めても、肝心の樹液がまだ十分出ておらず餓死する危険があります。このように、気候変動が進むと世界中の思わぬところで生物の生存に影響が及び、生物多様性の喪失につながることが懸念されます。今後、気候変動の緩和・適応策を進め、生物多様性の保全を図ることが急務です。

 

(参考文献)
槇原寛、田中憲蔵(2022)春季に茨城県つくば市の市街地のビル8階で捕獲されたアカマダラハナムグリ.日本甲虫学会・さやばねニューシリーズ.47:22-23


(文責:林業領域 田中憲蔵)