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399. 稚エビの新しい生産技術開発~基礎研究と応用研究の両立~

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399. 稚エビの新しい生産技術開発~基礎研究と応用研究の両立~

エビにはたくさんの種類がありますが、世界で最も多く養殖されているのは海産のクルマエビ、ブラックタイガー(ウシエビ)、バナメイエビといったクルマエビ科のエビ類です。その中でも世界のエビ養殖生産量の80% を占めているのが、バナメイエビです。バナメイエビは、中南米の太平洋地域に生息するエビですが、クルマエビと違って砂に潜る習性がないので、養殖の対象種として特化され、東南アジアでも盛んに養殖されています。世界のエビ養殖産業の規模は年々延びており、その生産量は現在500 万トン以上に達しています(これは世界中で消費される食用エビの約半分以上です)。

これだけ巨大化したエビ養殖産業を支えるためには、大量の稚エビを生産することが必要です。そのため、ふ化場では雌親エビの片方の目(眼柄)を焼き切る処理、いわゆる「眼柄切除」を行っています。その理由は、甲殻類の目の中には重要なホルモンを分泌するX- 器官・サイナス腺コンプレックスという組織があり、そこから卵成熟を抑制する因子が分泌されるからです。眼柄切除をすると、雌エビの成熟過程が促されて産卵しやすくなりますが、その効果は約3~4ヶ月でなくなるので、新しい親エビを使って眼柄切除を施して稚エビを生産しなければなりません。この生産方法は、親エビへの負担が大きく、効率も良いとは言えません。そして、近年、動物福祉の観点からも問題が指摘され、眼柄切除に代わる新しい稚エビ生産方法の開発を求める声が強まっています。

国際農研では、エビに優しく効率も良い新しい成熟促進技術を開発するための研究を推進しています。生物学的な知見に基づいて体内の抑制因子をコントロールするため、まず、成熟抑制因子である卵黄形成抑制ホルモン(vitellogenesis-inhibiting hormone:VIH)の体内での変動を明らかにしました。また、エビの体内で遺伝子発現を妨害して、VIH の合成を食い止める新しい技術を開発し、特許を取得しました(日本特許庁、特許第6789513 号)。現在は、本技術の実用化に向けて、商業ベースで運営されているふ化場で、その効果を検証する実証試験をタイ国の民間企業と共同研究を行っています。
本文は、広報JIRCAS掲載記事を再掲しています。


参考文献
国際農林水産業研究成果情報(令和元年度)27。RNA⼲渉法によるバナメイエビ卵⻩形成抑制ホルモン遺伝⼦の発現抑制

https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_d01

(文責:水産領域 姜 奉廷)

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