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384.気候変動が引き起こす人口移動のうねり

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384.気候変動が引き起こす人口移動のうねり

近年、国境を超えた移民問題の影響が国際的にクローズアップされていますが、むしろ国内での人口移動の方が遥かに大きな規模であることが認識されるようになっています。国内で人々が移動する理由は、経済・社会・政治・環境など多様ですが、最近は気候変動の要素が重要性を増しています。より多くの人が安定した暮らしを求めて、気候変動に脆弱な地域から、農業適地や就業機会に恵まれた地域へ移動しています。人口移動の規模とパターンを理解することは、開発計画策定において重要な意義を持ちます。

2021年9月、世界銀行は気候変動が引き起こす人口移動についての報告書を発表しました。 こちらは2018年の報告書のPart 2と位置付けられているようです。 

2018年報告書では、世界の開発途上国の人口の55%を占めるサブサハラアフリカ・南アジア・ラテンアメリカの3地域において、2050年までに気候変動に起因する国内での人口移動の動向予測についてシナリオ分析を行い、地域人口の2.8%に相当する1.43億人以上の人々が、水不足・作物の不作・海面の上昇・災害の頻発、等の理由によって、生活に不利な土地から農業適地や経済機会に恵まれた都市に移動するとしました。今回の報告書では、東アジア・太平洋地域、北アフリカ地域、東欧・中央アジア、の3地域を新たに追加し、アラブ地域や島嶼開発国について質的分析も加えられました。

報告書は、2050年までに、6つの地域に関し、気候変動に起因する人口移動が2.16憶人に及ぶ可能性を予測しています。地域別の内訳は、サブサハラアフリカ8600万人、東アジア・太平洋4900万人、南アジア4000万人、北アフリカ1900万人、ラテンアメリカ1700万人、東欧・中央アジア500万人、です。

報告書は、気候変動、人口動態、開発が、人口移動トレンドにいかに影響を及ぼすかについて明らかにし、持続的開発のために各国がとるべき気候・開発対策について提案しています。基本的に、人々は水アクセスや作物生産性の低い地域や海面上昇の影響を受けやすい地域から、都市や農業適地に移動していきます。国内移動のホットスポットは2030年くらいから現れ始め、2050年までにパターンは先鋭化していきます。報告書は、世界規模で温室効果ガス排出削減努力をし、環境に優しく包括的で強靭な開発によって、気候変動を起因とする国内移動を最大80%回避することが可能であるとしています。


参考文献
Clement, Viviane; Rigaud, Kanta Kumari; de Sherbinin, Alex; Jones, Bryan; Adamo, Susana; Schewe, Jacob; Sadiq, Nian; Shabahat, Elham. 2021. Groundswell Part 2 : Acting on Internal Climate Migration. World Bank, Washington, DC. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/36248

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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