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344. 新型コロナウイルスパンデミックの栄養への影響:低中所得国でさらに1億4100万人が健康的な食事を入手できなくなる

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344. 新型コロナウイルスパンデミックの栄養への影響

7月26日から本日28日まで、イタリアで国連食料システムサミットのプレサミットが開催されており、食・栄養に関する地球規模課題が議論されています。 

以前この欄でも言及したことがありますが、「栄養のために立ち上がろう」コンソーシアム(Standing Together for Nutrition Consortium: ST4N)は栄養学、経済学、食料・健康システムの研究者の学際的なコンソーシアムです。今回は、新型コロナウイルスが低中所得国の栄養に与えた影響について、Nature Foodに掲載されたST4Nの論文を2本紹介します。

Osendarpらの論文では、新型コロナウイルスパンデミックに関連する経済危機と食料・医療システムの混乱は低中所得国(LMIC)の低栄養を悪化させる恐れがあるとし、2020年から2022年にかけての悲観的・中程度・楽観的なシナリオを作成し、3つのモデリングツールを使用して、パンデミックによる混乱が低中所得国118か国で与える影響を推定しました。

2022年までに、新型コロナウイルス関連の混乱によってさらに930万人の消耗、260万人の発育阻害、16万8000人の子どもの死亡、210万人の母体貧血の症例、210万人のBMIの低い母親から生まれた子供、が現れる可能性があります。これらは中程度のシナリオに沿った予測であり、悲観的なシナリオを採用した場合は例えば消耗は1,360万人、発育阻害は360万人となります。

発育阻害や乳幼児死亡による将来の生産性の損失は297億ドル相当と見積もられました。これらの影響を緩和するために、追加的に年間12億ドルの栄養介入が必要になるでしょう。政府やドナーは、栄養の優先順位を保ち、強靭性のあるシステムを支援し、新規および既存の資源の効率的な使用を確保する必要があります。

またLabordeらの論説では、健康的で栄養的に適切な食事への影響が語られました。コロナ以前から30億人が健康的な食事に手が届いていないと言われていました。そのうち25億人は低中所得国63か国に住んでいます。この30億人に加えて新型コロナウイルスパンデミックによって1億4,100万人が健康的な食事を買う余裕がなくなることを示しました。これらの63か国では、パンデミックによる所得損失により入手可能性の格差が広がり、健康的な食事の半分のコストでさえ支払えない人が43%から50%に増加しました。

健康的な食事を入手できないことは、栄養不足や微量栄養素不足、食事由来の非感染性疾患につながります。健康的な食事の入手可能性を高めるためには、栄養強化や包摂的な経済成長、またフードシステムの多様化や生産性向上によって新鮮で栄養価の高い食品の価格を下げることが有効でしょう。


参考文献
Osendarp, S., Akuoku, J.K., Black, R.E. et al. The COVID-19 crisis will exacerbate maternal and child undernutrition and child mortality in low- and middle-income countries. Nat Food 2, 476–484 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00319-4
Laborde, D., Herforth, A., Headey, D. et al. COVID-19 pandemic leads to greater depth of unaffordability of healthy and nutrient-adequate diets in low- and middle-income countries. Nat Food 2, 473–475 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00323-8

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

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