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328. 雑魚(ざこ)の重要性

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328. 雑魚(ざこ)の重要性

世界食料デー(World Food Day)の10月16日は、1945年10月16日に国際連合食糧農業機関(FAO)が設立されたことを記念し、世界の食料問題を考える日として国際連合が1981年に世界共通の国際デーとして制定しました。世界食料デーにちなみ、多大な貢献をした人に対して毎年世界食糧賞(World Food Prize)が贈られており、2021年はShakuntala Haraksingh Thilsted博士(デンマーク在住のトリニダードトバゴ人)が受賞しました。バングラデシュにおける農村部住民の栄養補強を主目的として、商業的な養魚システムに、微量栄養素や脂肪酸に富む地域在来の小魚の養魚を導入し、またそれに関連するフードシステムの転換を促すことで住民の食料増産・微量栄養素の摂取量などの増加および生計向上に大きく寄与したことが、今回の受賞につながりました。世界の開発途上国・地域では、動物タンパク質や微量栄養素の摂取不足に起因する健康問題が強く懸念されており、特に東南アジアではラオスやカンボジアにおいて幼児の発育不良率が40%を上回るなど、大きな社会問題ともなっています。博士の研究は、こうした国・地域にも大きく貢献しうる成果と言えるでしょう。

国際農研でも、主にラオスにおいて、栄養状態に問題の多い山間農村部住民が常食としている在来魚類について、養魚技術開発や栄養評価を行ってきました(Fujita  et al. 2019, 2020)。加えて、ラオスには数多く存在し農村部では食材として極めて重要ではあるものの、市場ではあまり流通することのない小型の在来種、いわゆる「雑魚(ざこ)」についても、それらの資源保全と有効利用を目的に生態調査や養魚研究を行っています(Morioka et al. 2012, 2019)。特に「雑魚」に関しては、これらの多くがプランクトン食、もしくは雑食であり、またサイズも小さく、餌や養魚施設に関する様々な手間やコストを抑えることができることから、小規模な山間部の農民にも実施が可能な養魚システムと期待されています。こうした「雑魚」は鮮魚として消費されるだけでなく、乾物材としても重要で、さらにラオスでパデークと呼ばれる発酵調味料の原料としても珍重されます(丸井 2019)。これらの小魚は、その多くが丸ごと食べられることが多いので、骨に多く含まれるカルシウム・リンなどのミネラルを始めとする様々な栄養素の摂取に繋がり、幼児の発育不良の改善に寄与すると考えられます。

しかし、近年の人口増に伴う都市部や農地の拡張、都市・農業排水による水質汚染、さらには広域に生息するナイルティラピアを始めとする外来魚類による生息圏の圧迫など、域内の在来魚の生息環境は年々悪化しています。こうした現況は、食材としての魚類資源に対する危機であるだけでなく、地域の生物の多様性の保全にも大きな脅威と言えます。特に在来小型魚である「雑魚」は、同じ水域内の大型魚やその水辺の様々な動物の餌としても欠かすことのできない生物であり、地域の多様な生物相における重要な構成要素となっています。このように、食料資源として、そして生物多様性保全の観点からの重要性から、「雑魚」の生態・増養殖研究は、ますます重要性が増していると言えるでしょう。現在、国際農研では、食料プログラムの「熱帯水産養殖」プロジェクトにおいて、熱帯地方農村部の栄養不足改善のための小型在来魚類増養殖および活用技術開発に取り組んでいます。

 

参考文献
Kaori Fujita et al. (2019) Analysis of the Nutritional Composition of Aquatic Species Toward Nutritional Improvement in a Lao PDR Rural Area. JARQ 53, 191-199

Kaori Fujita et al. (2020) Variations of Basic Nutritional Compositions by Seasons and Sizes in Four Freshwater Fishes as Common Food Sources in Lao PDR. JARQ 54, 53-61 

Shinsuke Morioka et al. (2012) Growth and morphological development of laboratory-reared larval and juvenile three-spot gourami Trichogaster trichopterus. Ichthyological Research 59, 53–62 

Shinsuke Morioka et al. (2019) Characteristics of two populations of Thai river sprat Clupeichthys aesarnensis from man‑made reservoirs in Thailand and Laos, with aspects of gonad development.
Fisheries Science 85, 667–675 

丸井淳一朗 (2019) ラオスの味、パデークを科学する.科学89, 824–829 


(文責:水産領域 森岡 伸介)

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