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309. 「世界食品安全デー」とアジアの伝統食品

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2018年の国連総会にて、6月7日は、安全な食品のもたらす便益を祝う日として「世界食品安全デー(World Food Safety Day)」とすることが採択されました。 


今年のテーマは、「健康な未来のための安全な食品」、人々・動物・作物・環境と経済の間のシステマチックなリンクを理解することが将来世代のニーズを満たすことにつながることの喚起を目指しています。 食中毒は世界中の全世代に影響を及ぼします が、とりわけ低所得国の5歳以下の幼児に深刻な健康被害をもたらしています。

国際農研では、これまでも開発途上国における伝統食品の安全性を確保する技術開発をおこなってきました。その一例として、内陸国ラオスにおける淡水魚発酵調味料(ラオス名:パデーク)を紹介します。 パデークは内陸国ラオスの重要な食料資源である淡水魚を、塩、米糠とともに常温で半年から1年程度発酵させた伝統食品であり、グルタミン酸、リジン等の遊離アミノ酸を含む保存性の高い万能調味料として広く食されています。パデークは、写真のように青パパイヤの千切りと和えてサラダのよう に食されたり、スープや焼き物など様々な料理の味付けに使われます。

市場で流通する商業生産品とともに、農村世帯で生産・消費されるパデークは、身近な魚類資源を活かす栄養供給源としても重要です。一方、その発酵過程では、魚のタンパク質が分解して生じるアミノ酸の一種ヒスチジンが一部の細菌によりヒスタミンに変換されることがあります。感受性には個人差がありますが、500~1,000 ppm以上のヒスタミンを含む食品では、アレルギー様食中毒の懸念が生じます。国際農研と現地研究機関の共同研究により、仕込み時の塩分を18%程度に調整することにより、発酵に伴うヒスタミンの生成を抑制できることが明らかとなり、農村住民へのトレーニングやマニュアルを開発して普及に務めました。パデークにおけるヒスタミン生成要因を解明し、抑制方法を普及することで、安全性の確保や食料廃棄の削減が期待できます。

 

参考文献
Marui J et al. (2020) Journal of Food Protection, 84(3):429–436
https://doi.org/10.4315/JFP-20-272

(文責:生物資源・利用領域 丸井 淳一朗)

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