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241. 自然と共存する平和構築を

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約半世紀にわたり、人類による環境への負荷は次第に増大し、今や地球の緊急事態(a planetary emergency)をもたらしています。2021年2月、国連環境計画(UNEP)は「自然と共存する平和構築を(Making Peace with Nature)」を公表し、危機を乗り越え持続的な未来を築く方向性を提示しました。


報告書は、次のメッセージを述べています。

•    環境変化は、これまで達成してきた貧困・飢餓の撲滅、格差の解消、持続的な経済発展の促進、平和で包括的な社会の実現、にわたる開発の成果を無効にしかねません。

•    現在の若者および将来世代のウェルビーイング(福祉、幸福、健康)は、現在の環境劣化トレンドを10年間内に差し止められるかにかかっています。パリ協定で謳われる温暖化を1.5℃までに抑えるために、国際社会は、生物多様性を回復・保全し汚染を最小化しつつ、2030年までに2010年水準から45%二酸化炭素を削減し、2050年までに純ゼロを達成しなければなりません。

•    持続性達成のためには、地球環境の緊急事態への対応と人類の福祉を同時に達成するために、シナジーと効率を追求する必要があります。

•    経済・金融・生産システムの持続的な転換が必要とされています。このために、社会は、意思決定に自然資本重視の視点を取り入れ、環境に負の影響を及ぼす補助金を廃止し、持続可能な未来への移行に投資すべきです。

•    人類の英知や技術協力を結集し、自然を改変するのではなく、人類の自然との付き合い方を改変するべきであり、個々人が環境に責任ある行動をとるためのエンパワメント、多元的なガバナンスが重要になります。

このPick Upでも様々な機会でとりあげているようにに、現在、世界は気候危機・パンデミック・経済危機という多重の危機に直面しています。この背景には、人類の経済活動が地球の持続性の限界(planetary boundaries)を超えてしまっているということがあります。 今回のUNEP報告書はプラネタリー・エマージェンシー(緊急事態)と表現しましたが、既に、「気候変動」、「生物圏の一体性」、「土地利用変化」、「生物地球化学的循環」については、人間が安全に活動できる境界を越えるレベルに達していると指摘されています。この全てにおいて関わるのが農林水産業であり、科学技術によって持続的で強靭なフードシステム転換を推進することが求められています。

参考文献
United Nations Environment Programme (2021). Making Peace with Nature: A scientific blueprint to tackle the climate, biodiversity and pollution emergencies. Nairobi. https://www.unep.org/resources/making-peace-nature

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)
 

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