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224. 気候科学において2020年に得られた新しい洞察

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2021年1月27日、Global Science誌において、気候危機に対する国際協調への道筋を決定する上でカギとなる気候変動科学の最新かつ最重要な10の洞察(10 New Insights in Climate Science 2020 - a Horizon Scan)をまとめた論文が発表されました。2020年の新たなインサイトは以下になります。


1:二酸化炭素に対する地球のセンシティビティ ― 一定の排出増加に対する気温上昇の程度― に関する理解が大幅に向上し、従来想定していた緩やかな排出削減努力ではパリ協定を達成するのに十分でなく、野心的な排出削減を奨励する根拠を与えています。


2:永久凍土の急激な融解過程とその排出の影響については未だに世界的な気候モデルに組み込まれていません。永久凍土融解に伴う地盤沈下は想像以上に排出を悪化させることが予測されます。

 
3:熱帯林は炭素吸収のピークに達してしまったかもしれません。土地エコシステムは、二酸化炭素施肥効果(二酸化炭素濃度が高まることにより植物の光合成が刺激される結果、生産力増強や効率性が高まること)により、現在人類が排出する二酸化炭素排出の30%を吸収していますが、森林破壊は炭素吸収源としての熱帯林の効果を抑制しています。

 
4:気候変動は水危機を深刻化させるでしょう。新たな実証研究は、気候変動が既に極端な降雨イベント(洪水と干ばつ)をもたらしていることをしめしており、これらの事象は水危機をもたらします。水危機は、ジェンダー・所得・社会政治格差のため、極めて不平等なインパクトをもたらします。

 
5:気候変動はメンタル・ヘルス、精神面にも影響を与えます。次々と降りかかってくる気候リスクは不安や抑圧感をもたらします。都市部における緑化スペースの確保と自然環境・生物多様性の保全は健康面の便益と強靭性に貢献します。

 
6:各国政府はCOVID-19からのグリーン・リカバリーの機会を十分生かしていません。COVID-19のために世界中で12兆ドル以上の財政策が講じられた一方、パリ協定に必要な排出削減に必要な毎年の投資は1.4兆ドルと推計されています。

 
7:COVID-19と気候変動は新たな社会契約の必要性を示しました。パンデミックは、政府・国際機関が十分に越境性危機に対応しきれていないことを示しました。

 
8:COVID-19回復戦略として経済成長に重点を置き、持続性を後回しにする刺激策はパリ協定達成を失敗させかねません。

 
9:都市電化は世界で10億人以上に近代的エネルギーのアクセスを提供することで貧困削減を達成する持続的な方法だけではなく、気候変動と健康被害をもたらす空気汚染を引き起こす既存のサービスを、クリーンなエネルギーと代替する絶好の機会でもあります。

 
10:人権保護のために裁判所へ訴えることは重要かつ効果的な気候アクションの一つです。 

 

参考文献

Pihl, E., et al. (2021). 10 New Insights in Climate Science 2020 - a Horizon Scan. Global Sustainability, 1-65. doi:10.1017/sus.2021.2 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)
 

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