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38. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 国連食糧農業機関 (FAO) 2020年5月食料価格動向速報
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、世界的な経済不況をもたらしています。穀物市場においては世界的に十分な在庫が確保されていることから、現段階では危機的な価格高騰は回避できていますが、国際社会では、刻々と変化する食料輸出国による政策の動きを含み、食料価格に影響を与える様々な要因をモニターしていく必要性の認識が共有されています(Pick Up 9, 24, 27)。
国連食糧農業機関(FAO) は、世界・地域・国レベルでの最新価格動向について、食料価格動向速報(Food Price Monitoring and Analysis: FPMA Bulletin Monthly Report)を公表し、とくに価格上昇が観察される国々の事情について詳細な情報を提供しています。 以下、2020年5月速報の概要を紹介します。
2020年4月、黒海地域においては、輸出規制が実施される中、旺盛な国際需要を受けて、小麦輸出価格は一か月前に比べて7%上昇しました。アメリカでは3月に比べて2%、2019年の同時期に比べて9%上昇しました。アメリカでは輸出のペースが遅れ気味であることから上昇圧力は抑えられていますが、EUと黒海地域では旺盛な輸送が価格を押し上げています。
メイズに関しては、ベンチマーク価格であるUSメイズが前月に比べて10%下落し、10年来の安値となりました。世界的に十分な供給があり、また現在収穫中である南米での生産見通しが価格に下落圧力をかけています。加えて、バイオ燃料や家畜飼料への需要低迷も拍車をかけています。主要な輸出国の中でも、ウクライナでは、輸出価格は比較的安定していますが、4月初旬の大型輸出が4月後半の外国需要の落ち込みを補完している形になっています。
コメに関しては、一部輸出国による一時的な輸出規制や物流の停滞を受けて、国際価格は上昇しました。4月、FAOの全コメ価格指標(2002-2004=100)は7%上昇し、2011年12月来の高値を付けました。3月末にベトナムが新規輸出を一時停止するとの発表に、カンボジアによる輸出の禁止の報道、ミャンマーによる新規輸出ライセンス発行の停止が続き、4月初頭のアジアインディカ米価格の高騰につながりました。インドなどにおける検疫による流通の制約がさらに価格上昇圧力となりましたが、ベトナムが最終的に輸出規制を緩和から最終的に廃止し、インドでも検疫制約が解消することで落ち着きました。アメリカでは減作や旺盛な輸出がインディカ価格を2013年8月以来の水準に押し上げましたが、主要な南米輸出国では収穫と為替の動向で価格上昇は限定的です。
参考文献
FAO. Food Price and Monitoring Analysis. http://www.fao.org/giews/food-prices/home/en/ Accessed on May 13, 2020.
FAO. FPAM (Food Price and Monitoring Analysis) Bulletin #4. May 12, 2020. http://www.fao.org/3/ca9086en/ca9086en.pdf
Pick Up 9. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 輸出規制・保護主義回避の必要性:2008年世界食料危機からの教訓https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200402
Pick Up 24. 新型コロナウイルス・パンデミック ― 世界銀行報告:COVID-19の一次産品商品市場への影響 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200426_0
Pick Up 27. 新型コロナウイルス・パンデミック ― IFPRIダッシュボード: COVID-19輸出規制による世界食料市場への影響追跡 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200503
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)