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1567. 1.5℃超過を見据え、上昇幅と超過期間を最小化する:UNEP報告書「Limiting Overshoot」
1567. 1.5℃超過を見据え、上昇幅と超過期間を最小化する:UNEP報告書「Limiting Overshoot」
2026年9月2日、国連環境計画(UNEP)は報告書「Limiting Overshoot: Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return」を公表しました。本報告書は、世界平均気温の上昇が今後数年以内に産業革命前と比べて1.5℃を超過する可能性が高いとの認識を示した上で、その影響を最小限に抑え、可能な限り早く世界平均気温上昇を1.5℃未満へ戻すために必要な対応を整理したものです。
UNEPは、温暖化が1.5℃を超えることを前提に受け入れるべきだと主張しているのではありません。むしろ、温室効果ガス排出を直ちにかつ継続的に削減し、気温上昇のピークをできるだけ低く抑えるとともに、超過期間をできるだけ短くし、その後に気温を低下させる「オーバーシュート、ピーク、低下」の経路が、現時点で残された最善の選択肢であると位置付けています。
オーバーシュートは単年の記録ではなく、気温変化の経路
UNEPが本報告書で用いる「オーバーシュート」とは、ある1年の世界平均気温が1.5℃を上回ることだけを指すものではありません。1.5℃を超過し、その後に温暖化がピークに達した後、気温が低下して安定化するまでの一連の気温変化の経路を意味します。
2024年には、単年平均の世界平均気温が産業革命前比で初めて1.5℃を上回ったと報告されています。ただし、パリ協定における長期の気温目標との関係では、単年の値だけでなく、数十年規模の平均的な状態を踏まえて評価する必要があります。
そのため、今後重要となるのは、気温がどこまで上昇するのか、1.5℃を超える状態がどの程度続くのか、そして気温を実際に低下へ転じさせられるのか、という点です。UNEPは、これらはいずれも既定のものではなく、現在および今後の排出削減、投資、適応策、国際協力によって大きく左右されると指摘しています。
上昇幅と超過期間の拡大はリスクを高める
UNEPは、温暖化のピークが高くなるほど、また1.5℃を超過する期間が長くなるほど、人々と自然に対するリスクが増大するとしています。具体的には、極端な高温、豪雨、干ばつ、生態系の損失などの影響が深刻化するおそれがあります。また、温暖化の規模と期間が大きくなるほど、大規模氷床の不安定化、アマゾン熱帯林の劣化、大西洋南北熱塩循環(AMOC)の変化など、不可逆的な変化、または回復が極めて困難な変化につながる閾値を越える可能性も高まります。
仮に将来、世界平均気温を低下させることができたとしても、海面上昇、生物多様性の損失、氷河や生態系の変化、居住地や生計の喪失などの影響が元の状態に戻るとは限りません。UNEPは、ピーク温度を低く抑え、オーバーシュートの期間を短くすることが、人々、社会、経済、生態系が直面するリスクを小さくするうえで重要であると強調しています。
排出削減、適応、CDRを並行して進める必要
UNEPは、オーバーシュートの規模を抑えるため、二酸化炭素だけでなくメタンを含む温室効果ガスの排出を、直ちにかつ継続的に削減する必要があるとしています。短寿命気候汚染物質であるメタンの削減は、短期的な温暖化の進行を抑える観点からも重要です。
同時に、すでに顕在化している気候変動の影響や、複数のリスクが連鎖・複合する事態に備え、適応を強化する必要があります。UNEPの中心的なメッセージは、緩和と適応を代替関係として捉えるのではなく、両者を同時に前進させるべきだという点にあります。
また、温暖化の進行を抑え、気温上昇を安定化へ向かわせるためには、世界全体で二酸化炭素排出を実質ゼロへ到達させることが重要です。さらに、オーバーシュート後に気温を低下させるためには、長期にわたり、排出量を上回る二酸化炭素除去を実現する、すなわちネットネガティブCO₂排出が必要になります。UNEPは、このための手段の一つとして二酸化炭素除去(CDR)を位置付けています。
CDRの活用には責任あるガバナンスが不可欠
CDRには、植林・再植林、森林・湿地の回復、土壌炭素の管理といった自然を活用する方法に加え、直接空気回収・貯留(DACCS)などの技術的手法があります。UNEPは、こうしたCDRを気温低下に向けた重要な要素と位置付ける一方で、排出削減の代替として扱うべきではないことを明確にしています。
とりわけ、土地や生態系を活用するCDRは、比較的早期に取り組み得る選択肢である一方、広い土地を必要とする場合があります。そのため、食料生産、生計、土地権利、生物多様性、水資源などとの競合を慎重に考慮する必要があります。また、森林や土壌に蓄積した炭素は、温暖化、干ばつ、山火事、病害虫などによって再放出される可能性もあります。
このような課題を踏まえ、本報告書は、CDRの拡大に当たって、炭素貯留の永続性、技術の成熟度、コスト、環境・社会面の影響、公平性を考慮した強固なガバナンスが重要であることを示しています。
1.5℃目標を緩めず、残された選択肢を広げる
本報告書が示す「超過・ピーク・低下」の経路は、1.5℃目標を緩めたり、気候変動対策の遅れを容認したりする考え方ではありません。UNEPは、オーバーシュートを「諦めの理由ではなく、行動を急ぐ理由」と位置付けています。
本稿では、同報告書のメッセージを次のように整理します。すなわち、温暖化の上昇幅を可能な限り小さくし、1.5℃超過の期間を可能な限り短くするためには、温室効果ガス排出の大幅かつ継続的な削減、気候影響に備える適応の強化、そして排出削減を補完する責任あるCDRを、並行して加速することが必要です。
現在の政策・投資・国際協力に関する選択は、将来の温暖化ピークの高さ、オーバーシュートの長さ、及び将来世代に残される適応・開発上の選択肢を左右します。
参考文献
UNEP (2026) Limiting Overshoot: Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return. https://doi.org/10.59117/20.500.11822/49857
(文責:戦略統括室 飯山みゆき)