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1462. 2026年中東紛争のエネルギー・肥料貿易、そして食料安全保障への影響

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1462. 2026年中東紛争のエネルギー・肥料貿易、そして食料安全保障への影響

 

2026年2月にペルシャ湾で勃発した紛争は、世界のエネルギー、肥料、そして農産物・食品システムに深刻な衝撃を与えています。その中心的要因は、湾岸地域のエネルギー生産国と世界の市場を結ぶ戦略的な海上回廊であるホルムズ海峡の貿易の混乱です。通常、この海峡は1日あたり約2,000万バレルの原油と精製油(世界の海上輸送石油の約4分の1)に加え、相当量の液化天然ガス(LNG)と肥料を輸送しています。 紛争発生から数日のうちに、海峡を通過するタンカーの航行量は90%以上も激減し、輸送は著しく制限されました。この混乱は、世界のエネルギー市場と農産物・食品システムに急速に不安定性をもたらしています。

国連食糧農業機関(FAO)は、中東紛争のエネルギー・肥料貿易、そして食料安全保障への影響についてのレポートを公表しました。レポートは、肥料不足とエネルギー価格の高騰は作物の収穫量を脅かし、送金の減少やバイオ燃料生産への潜在的なシフトは、特にアフリカ、アジア、その他の輸入依存地域において、食料価格の変動を増幅させる可能性について指摘しています。レポートはまた、今回の危機の影響が、ウクライナ戦争時の経済的影響と、どのように異なるかについても、分析を行っています。

ウクライナ戦争による経済的影響は、食料の直接供給と生産に必要な投入物の両方に、大規模な同時ショックを与えたことが特徴的でした。これは、世界的な需要が急増していた時期と重なりました。ロシアとウクライナは、世界の農業食料システムの基盤であり、小麦、トウモロコシ、大麦、ヒマワリ油といった主要な農産物の主要輸出国でした。戦争によって、これらの加工済み農産物は市場から即座に姿を消しました。同時に、貿易の混乱により、ロシアの天然ガスと肥料の輸出は大幅に制限され、他の国々が不足分を補うために生産を拡大する能力が著しく損なわれました。一方、世界はパンデミックの時代からようやく抜け出しつつあり、世界の消費者需要は極めて強い状態でした。さらに、2021年後半の悪天候により収穫量が減少しており、戦争が始まる前から世界の穀物備蓄はやや減少していました。こうした状況が重なり、食料価格のインフレの悪循環が典型的な形で発生しました。穀物と油糧種子に対する需要の高まりは、即座に深刻な供給ショックを引き起こしました。食料価格は予想通り急騰し、エネルギーと肥料価格の高騰は、短期的な農業回復を事実上阻害しました。

現在の湾岸地域における紛争は、エネルギーと肥料市場と同等、あるいはそれ以上の規模のショックを生み出しています。しかし、食料市場の力学は完全に逆転しています。黒海地域とは異なり、中東は主要穀物や油糧種子の主要輸出国ではありません。小麦、トウモロコシ、大豆の直接的な世界的供給は、この紛争によって物理的に破壊されたり、供給源で封鎖されたりしたわけではありません。最も重要な違いは、湾岸諸国が歴史的に世界で最も食料の純輸入に依存している国々の一つであるということです。この地域が紛争と封鎖によって麻痺しているため、世界の農業需要のかなりの部分が事実上市場から排除されています。危機の根本的な構造が異なるため、経済的な結果や必要な政策対応は2022年の二の舞にはなり得ません。ブラジルや米国などの農家は、穀物は豊富にあるものの、中東での買い手が減り、トラクターの燃料費や肥料代に莫大な費用を支払わなければならない状況に陥る可能性があります。したがって、最適な政策対応は変化します。政府は、緊急食料供給の確保のみを目的とした政策ではなく、投入コストの重圧で国内農業部門が崩壊するのを防ぐと同時に、余剰穀物の新たな市場を開拓するか、あるいは湾岸諸国への新たな供給方法を見つけるという方向転換を図る必要があります。

 

(参考文献)
FAO (2026) Global Agrifood Implications of the 2026 Conflict in the Middle East Impacts on energy and fertilizer trade, and food security. https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/3b58893d-f017-…

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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