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1390. 海洋の深層における複合的な変化
1390.海洋の深層における複合的な変化
地球の生命維持システムである海洋は、温暖化、酸性化、脱酸素化、塩分濃度の変動など、複数の気候関連ストレス要因が原因で、その深部まで及ぶ急速かつ広範な変化を経験しています。しかしながら、これらの変化が海洋状態に及ぼす複合的な影響について、これまで地球規模の視点から考察することが困難でした。
Nature Climate Change誌で公表された論文は、世界の海洋の広大な地域で複合的な状態変化が見られ、温暖化、塩分濃度の上昇または淡水化、酸素の減少、酸性化が同時に進行しており、気候変動によって海洋環境が未知の領域へと進んでいるエビデンスを示しました。
本研究は、複数の海洋の重要な変数を標準化・統合し、過去60年間で物理的および生物地球化学的変数(総称して複合気候影響要因)の影響を受ける海洋状態が世界的に顕著になっていることを示しました。特に、海洋表層の30%から40%は、60年前と比較して、水温、塩分、酸素濃度が同時に変化しているという、顕著で憂慮すべき傾向を示しました。最も激しい複合的な変化は、熱帯・亜熱帯大西洋、北太平洋、アラビア海、地中海で発生しています。かつては安定していると考えられていた深海でさえ、私たちが考えていたよりも急速に反応していることを示唆しています。
複合的な海洋変動は海洋生態系を変容させ、それらに依存する生物群を脅かしています。海洋生物は、複数のストレス要因に同時にさらされると、より大きなストレスに直面し、移動や減少を余儀なくされます。 こうした混乱は、世界の漁業を不安定にし、食料安全保障を脅かし、人々の生活を脅かす可能性があります。生物多様性に加え、こうした変化は海洋の炭素と熱の吸収能力を弱め、地球の気候調整器としての役割を損なう可能性があります。この研究結果は、地球規模の気候変動対策に資する、持続的で高品質な海洋モニタリングの緊急の必要性を浮き彫りにしています。
(参考文献)
Tan, Z., von Schuckmann, K., Speich, S. et al. Observed large-scale and deep-reaching compound ocean state changes over the past 60 years. Nat. Clim. Chang. (2025).
https://www.nature.com/articles/s41558-025-02484-x
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)