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1388. より深刻で長期にわたる干ばつの影響
1388. より深刻で長期にわたる干ばつの影響
気候変動は、世界中の多くの地域で、より深刻で長期にわたる干ばつをもたらしています。一部の生態系は、深刻化する干ばつに対して回復力を示していますが、干ばつが深刻化するにつれて、この状況は変化する可能性があります。干ばつの期間に対する生態系の反応パターンを完全に理解するには、干ばつの強度との相互作用も評価する必要があります。
世界中の草原と灌木地帯の生態系は、地球の陸地表面の約40%を覆い、重要な生態系サービス[例:食料、飼料、繊維]を提供し、その生産性は降水量の変動に極めて敏感です。Science誌で公表された論文は、世界中に分布する74の草原と灌木地帯において、干ばつの期間と強度が全球陸域純一次生産力(植物において,光合成による総一次生産から呼吸による消費のみを差し引いたもので、生態系に流入する炭素量に相当)に及ぼす複合的な影響を定量化しました。国際干ばつ実験(The International Drought Experiment: IDE)は、世界の6つの大陸に設置され、すべてのIDEサイトでは、受動的な雨よけシェルターを用い、最大4年間の年間を通しての干ばつをシミュレートする共通の実験アプローチが使用され、自然干ばつ事象の主要な特徴(すなわち、降雨事象の規模と頻度が少なく、降雨事象間の期間が長いこと)を反映しつつ、干ばつ期間の影響を費用対効果の高い方法で評価することが可能になりました。
IDEの結果、複数年にわたる中程度(またはそれほど深刻ではない)の干ばつにさらされた生態系は、1年目に最初の機能喪失が見られた後、この限られた機能レベルを維持する(すなわち、生態系の順応を示す)可能性が高いことを示しました。対照的に、歴史的に極端なレベルまで深刻度が増すと、時間の経過とともに累積的な機能喪失のパターンが生じます。時間の経過とともに、種の損失が大きいほど、干ばつによる生産性の低下が顕著になりました。
実験の結果、生態系は、干ばつが極度(発生確率100年に1回以下)の場合を除いて、全体的に複数年にわたる干ばつに順応することが観察されました。一方、4年連続の極度干ばつ後の生産性損失は、最初の年と比較して約2.5倍に増加しました。これらの結果は、干ばつの期間と強度が増した場合、生態系の行動が根本的に変化することを予兆しています。つまり、時間の経過とともに機能が低下したまま維持される状態から、干ばつが極度の場合に生産性が徐々に著しく低下していく状態へと変化していくのです。
論文は、多くの草原や低木地帯の生態系が、IDE 地点の大部分と同様に、広範囲の半乾燥気候から乾燥気候に分布していることを踏まえ、水資源が限られたシステムが降水量の短期的な変動に迅速に対応し、同時により長期の乾燥期間にも機能を維持する能力を有しているという発見は、これらの生態系の長期的な安定性と整合しているとしています。一方、極度に激しい長期の干ばつにより、草原や低木地帯の干ばつ持続に対する抵抗力が急速に侵食されるという発見は、これらの生態系の不確実な将来を予感させ、生態系の長期的な安定性と、それらが提供する生態系の財やサービスを脅かしています。メガ干ばつを含む極度の連続干ばつは、気候変動に伴って今後増加すると予測される中、論文は、極度の干ばつが連続して発生した場合の生産性の低下の可能性に警鐘を鳴らしました。
(参考文献)
Timothy Ohlert et al. Drought intensity and duration interact to magnify losses in primary productivity, Science (2025). https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads8144
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)