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1385.アフリカで訴えてみた「畑を休ませて農家を豊かに!」
1385.アフリカで訴えてみた「畑を休ませて農家を豊かに!」
経済発展しても飢餓はなくならない
皆さんはアフリカというと、どんなことを思い浮かべますか? 「発展の勢いがすごい」「貧しくて飢餓が深刻」、まったく違う答えですが、その両方が正解です。アフリカの経済成長率は世界平 均を上回り、若い世代が多く、人口も増え続けていることから、世界で最も注目される成長市場の ひとつとされています。その一方で、気候変動、世界的な食料の値上がり、長引く紛争などにより、世界で一番多くの人が飢餓に苦しんでいる地域でもあります。人口が増えれば増えるほど、たくさんの食料を安定して作り続けなければなりません。しかし、アフリカの農業の生産力は、世界の他の地域と比べるとまだ低いのが現状です。その理由はいくつもあります。例えば、気候変動、新しい技術があまり使われていないこと、お金を借りにくいこと、土地や市場、道路などの整備が進んでいないこと、情報が行きわたっていないことなどです。その中でも特に大きな原因のひとつが「土壌の劣化」です。
畑だって休みがほしい!
昔のアフリカでは「休閑」といって、畑をしばらく休ませることで土を回復させていました。ところが人口が増え、家族で土地を分けるようになり、多くの農家が畑を休ませる余裕がなくなってしまいました。畑を休ませないと、栄養分や水分など土の力が 衰え、作物の収穫量が少しずつ減っていきます。また、土がやせると肥料の効き目が悪くなり、農家にとって「肥料を使っても損をするだけ」ということになってしまいます。そのため、肥料をまく量が減り、ますます生産力が上がらなくなる悪循環が生まれてしまうのです。特に西アフリカの乾燥した地域ではこの問題が深刻です。このような土壌劣化を防ぐために、草や作物の残渣(畑に残る茎や葉)を畑に敷く方法、畝を作る方法、石を並べる方法、穴を掘って堆肥を入れる「ザイ」と呼ばれる技術など、さまざまな技術が開発されてきました。しかし、これらはお金や人手がたくさん必要で、効果が出るまでに時間もかかるため、なかなか広まっていません。
お金も人手もかからない「耕地内休閑システム」
そこで、国際農研では「耕地内休閑システム」という土壌劣化を防ぐ新しい技術を開発しました。この方法では、畑の中に1 メートル幅の「何もしない帯(休閑帯)」を15メートルごとに作ります。この休閑帯は雨水の流れを遮るように設置します。すると、土は地面に近い層ほど養分を多く含んでいるのですが、雨で流されてきた最も養分を多く含む土が休閑帯のところに溜まります。翌年は休閑帯を少し斜面の上側に移します。こうして休閑帯を毎年ずらしていくことで、土壌 劣化を防ぎつつ、2年目からは養分が溜まった前年の休閑帯でも耕作ができるため、収穫量の増加も期待できます。しかもお金や労働力がほとんどかかりません。この技術の効果は現地での6 年間の試験によって実証されています。ただし、休閑帯を作った最初の年は、どうしてもその部分の収穫が6%ほど減ってしまいます。 た、土壌劣化による収穫量の低下は緩やかに起こるので、農家は気づくことが難しく、なかなかその対策をする気になれないかもしれません。そういう理由で、残念ながらこの技術は農家の間で普及しないことも考えられます。そこでどういう手を打つか、それを考えるのが私の役割です。
ブルキナファソでの普及を目指して
私は農業経済学という分野で研究をしています。農家にインタビューして農業生産や家計情報 などのデータを集め、経済学や統計学のモデルを 使って「どんな技術や制度が農業の生産性向上に効果があるのか」「どのようにすれば効果的に農業技術が普及するのか」などを調べています。今 はブルキナファソという国で、この「耕地内休閑システム」をどうすれば農家に効果的に広められるかを研究しています。人は、将来に不利益が起こりそうでも、今すぐ対策をとるのは難しいものです。そこでこの研究が取り入れたのが、近年ノーベル経済学賞受賞者を出した行動経済学です。具体的には、まだ先の不利益に対して、農家が行動を起こしやすくなるよう工夫した“技術トレーニング”を行っています。これは、人を対象とした経済実験と呼ばれる分野です。このような研究をするときは、研究者が現地で農家と直接対話することが欠かせません。しかし、2022 年にブルキナファソでクーデターが発生し、現地に入ることができなくなってしまいました。そこで、現地の共同研究者と協力し、CAPI(Computer-Assisted Personal Interviewing、コ ンピューター支援対面調査)などのITツールを 用いながら、工夫を凝らして研究を行っています。アフリカの土を守り、安定した食料生産や農家の収入向上、さらに飢餓や貧困の削減に少しでも役立てるような研究を、これからも続けていきたいと考えています。
(アイキャッチ写真)セネガルで耕地内休閑システム普及の可能性を探る農家インタビュー調査を行いました(右から2 番目が筆者)
本文は、 広報JIRCAS掲載記事 を再掲しています。
(文責:社会科学領域 村岡理恵)





