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1142. レジリエントな作物開発に向けた遺伝資源の機会と課題

1142. レジリエントな作物開発に向けた遺伝資源の機会と課題
気候変動は、極端な気象現象の頻度・強度を増加し、空間的広がりおよび継続期間を拡大することを通じ、主要な作物の生産に重大な脅威をもたらすと予測されています。例えば、熱波、干ばつ、洪水の発生率の増加は、小麦やトウモロコシなどの穀物の収穫量に悪影響を及ぼします。
食料安全保障にとり、レジリエントな作物開発の加速が求められています。2021年に公表された総説の内容を紹介します。
近年急速に展開する技術やアプローチを統合し、形質選択の精度を高めることで、レジリエントな作物の育種を大幅に改善する可能性があります。実際、 ハイスループットの精密表現型解析、高速育種、ゲノム選択と遺伝子編集の採用、および高品質のデータを生成するためのデジタル技術の適用により、熱波や干ばつに強い作物の育種に成功しています。
同時に、栽培化による人工選択の影響を受けてきた形質を特定するために、伝統的な在来種や野生近縁種を含む、遺伝的多様性を世界的に保護するためにも多大な努力が払われています。
十分に活用されていない非主要作物は、主要作物が生育しにくい乾燥地域や半乾燥地域に適応することが多く、気候変動に向けた世界に替的な解決策を提供する可能性を秘めています。穀物マメ科植物は、熱帯および亜熱帯環境によく適応し、窒素固定能力により栄養価の低い土壌で成長できるという利点が追加されています。こうした作物は、圃場で「保険作物」としてのニッチを占める一方、主要作物と比較して研究投資は十分行われてこず、これら作物のストレス耐性に関する分子メカニズムの解明はまだ十分進んでいません。
世界中のジーンバンクが、主要作物の栽培品種や在来種だけでなく、十分に活用されていない作物や野生の近縁種など、多様な作物のサンプルを保護しています。しかし、育種プログラムに使用されているのはごく一部であり、ストレスに強い作物の開発に使用されているのはさらに少ない状況です。遺伝子多様性を育種家が活用するために、表現型、生理学的、農学的データ、またはこの情報をまとめる他のデータベースへのリンクなどの情報整備が急務となっています。
11月22日のJIRCAS国際シンポジウム2024では、地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の果たす役割について議論します。
JIRCAS国際シンポジウム2024
地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の機会と課題
開催日 2024年11月22日(金) 13:30~17:30 (13:00受付開始)
場所 ハイブリッド(国連大学ウ・タント国際会議場およびオンライン)
特設サイト https://www.jircas.go.jp/ja/symposium/2024/e20241122_jircas
(参考文献)
Rosa M. Rivero et al. 2021 Developing climate-resilient crops: improving plant tolerance to stress combination. The Plant Journal. https://doi.org/10.1111/tpj.15483
Yoselin Benitez-Alfonso, et al. Enhancing climate change resilience in agricultural crops, Current Biology, Volume 33, Issue 23, 2023, Pages R1246-R1261, https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.10.028
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)