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1124. 近年の大気中メタン急増は、湿地・廃棄物・農業由来の微生物源からの排出増による

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1124. 近年の大気中メタン急増は、湿地・廃棄物・農業由来の微生物源からの排出増による

 

大気中のメタンガス(CH4)の増加は、2020年から2022年にかけて過去最高の増加を記録するなど、過去10年間で加速しています。先日紹介したように、PNAS誌で公表された論文は、湿潤熱帯地方の湿潤状態が2020年から2022年のメタン急増を引き起こしたことを示しました。

今回、PNASで発表された論文は、近年の大気中メタン急増は、主に湿地・廃棄物・農業由来の微生物源からの排出量増加によって引き起こされたと推計しました。

論文著者らは、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の全球温室効果ガス参照ネットワークからのCH413C:12C比(δ13CCH4として表される)の測定値とモデルを使用し、急速なCH4成長の潜在的な要因を分析しました。大気中のCH413CCH4)の炭素同位体組成は、大気中のCH4の発生源と吸収源を追跡するための強力なツールです。論文によると、異なるCH4源は、独特のδ13CCH4値を持っています。微生物由来のCH4排出(湿地、家畜、埋め立て地など)は、パイロジェニック(バイオマスとバイオ燃料の燃焼)および化石燃料よりもδ13CCH4値が低くなっています。大気中のCH4のさまざまな吸収源も、独特の同位体効果を持ちます。したがって、大気中のCH4モル分率とδ13CCH4の観測を組み合わせることで、全球的なCH4の発生源と吸収源の変化を捕捉することが可能だそうです。

2020年、2021年、2022年の年間世界平均メタン成長率は、15.2 ± 0.45、17.9 ± 0.45、13.1 ± 0.8 ppbという記録的なレベルに達し、2014年から2020年の年間平均成長率9.2 ppb、2008年から2014年の平均成長率5.3 ppbを大幅に上回りました。一方、2020年から2022年までの世界のδ13CCH4の年間成長率は、-0.09±0.01‰であり、2014年から2020年の-0.04±0.02‰、2008年から2014年の-0.03±0.02‰よりもはるかに速い減少でした。

CH4増加の潜在的要因に対する同位体応答をテストするために、論文著者らはモデルを用い、対流圏におけるOHの減少、化石燃料排出量の増加、微生物排出量の増加、等のシミュレーションを実施した結果、微生物由来排出量増加のケースのみがδ13CCH4の減少を示すことを示しました。

一方、論文によると、大気中のδ13CCH4では、人為的な微生物源(家畜、埋立地)と自然発生源(湿地)を区別することができないため、潜在的な気候フィードバック仮説を調査するにはさらなる研究が必要としました。しかし、論文で使用したモデルは、2020年から2022年にかけて、微生物由来の排出が2008年以降の数年間よりもさらに重要な役割を果たしたことを示唆しています。これは、湿地由来の排出量増加が近年の世界CH4収支に重要な役割を果たすことを強調する研究結果と概ね一致しています。

 

(参考文献)
Michel, Sylvia Englund, Rapid shift in methane carbon isotopes suggests microbial emissions drove record high atmospheric methane growth in 2020–2022, Proceedings of the National Academy of Sciences (2024). https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2411212121

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

 

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