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1053. 近年におけるアグリフードシステム研究の動向

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1053. 近年におけるアグリフードシステム研究の動向

地球規模での気候変動・環境危機のもと、変化と不確実性の時代において、科学による解決方法がかつてないほど必要とされています。とりわけ農家・農村コミュニティをとりまく気候変動・政情不安を起因とする情勢は悪化し、貧困および栄養ある食へのアクセス保障するための即効性ある政策を導き出す科学的知見が求められています。こうした背景を受け、近年、アグリフードシステムについての研究が急増していますが、取り残されている課題はないでしょうか。

最近、人工知能(AI)を使い、過去13年にわたる世界でのアグリフードシステム研究動向を分析したレポートが発表されました。レポートは、600万件以上の科学論文・報告書を俯瞰し、過去13年間、アグリフードシステムの研究は60%増加したにもかかわらず、貧困かつ飢えに苦しみ、気候変動に最も脆弱な国々での研究が極めて少ないことを示しました。35,000ものジャーナルを精査しても、取り上げられた論文が1000件以下の国もありました。中小規模企業や小規模農家といった様々なステークホルダーを対象とした研究は、世界のアグリフードシステム研究の8%にすぎませんでした。

緊急性をもって取り扱われるテーマにも差がみられました。栄養問題はどんな社会にとっても重要であるにもかかわらず、脆弱な幼児・母親社会層を対象とした研究は6%だけでした。主食作物に関する文献に比べ、果物・野菜・豆類といった食生活・使用向上に欠かせないテーマの研究はずっと少ない傾向にありました。女性のエンパワメントといった包括性やジェンダー格差解消にかかわってくるテーマとして、作物・家畜・水産・林業・食品加工・貯蔵施設についての研究も、もっと多くなされてよいはずです。

環境持続性・気候変動適応についても、より多くの研究が必要とされています。しばし、水使用量・水質・土壌の健全性といった環境持続性に関わる指標についてデータを集めていない、または測定技術を用いていない研究も散見されました。アグリフードシステムにおける重要性にもかかわらず、水産・畜産・林業分野の研究は、作物研究ほど重視されてこなかった傾向があります。

レポートは、以上の傾向を解消するには、システム的なアプローチが必要であり、論文公表や研究資金の優先分野など科学・政策にまつわる根強い力関係に立ち向かう必要性を強調しました。

 


(参考文献)
Jaron Porciello et al, The State of the Field for Research on Agrifood Systems (2024). 
https://www.cabidigitallibrary.org/doi/10.1079/junoreports.2024.0001

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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