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1101. エリアンサスの高い水利用効率を支える代謝物

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1101. エリアンサスの高い水利用効率を支える代謝物

 

糖料・エネルギー作物であるサトウキビは経済的に極めて重要な作物であり、2021年時点の世界生産量は18億トンを超え(FAOSTAT)、重量ベースでメイズ(12億トン)・コメ(7.9億トン)・コムギ(7.7億トン)の三大穀物を圧倒しています。

サトウキビの生産性は降水量に大きく左右され、栽培には十分な日照と豊富な水源が必要とされています。耐乾性の改良は育種の重要目標のひとつですが、近代品種間の交配により遺伝的基盤が脆弱となり、耐乾性を始めとする環境ストレス耐性の改良は遅れています。国際農研では、近縁遺伝資源であるエリアンサス(Erianthus arundinaceus)を用いた属間交配による遺伝的基盤の拡充および環境ストレス耐性の改良を目指し研究しています。

サトウキビは生育期間が長い大型作物で、耐乾性を成立させる機構は複雑とされています。9月11日にPlanta誌にオンライン掲載された論文では、葉のガス交換特性にスケールダウンし、光合成速度を気孔コンダクタンス(蒸散指標のひとつ)で除した水利用効率に着目して、耐乾性の生理機構の解明を試みました。具体的には、サトウキビ品種‘NiF8’およびエリアンサス系統‘JW630’のガス交換特性および葉身形態を調査し、代謝物を部位・成分に関し網羅的に解析しました(※whole-plant metabolome、株全体のメタボローム解析と呼ばれる手法)。

解析の結果、エリアンサスは、サトウキビに比べ顕著に高い水利用効率を示し、葉の裏面の気孔密度が低いこと(※気孔が少ないと蒸散による水分ロスも少ないとされる)、葉にベタインやGABA(γ-アミノ酪酸)といったストレスに応答して機能する物質を多く含むこと等を明らかにしました。また、依然検証するべき課題はあるものの、これらの代謝物は耐乾性系統選抜のためのバイオマーカー(※生体のストレス耐性やストレスダメージを表す物質)の候補物質として提案できます。

これまで、エリアンサスの高い耐乾性はその高い根系形成能と結び付けて理解されてきました。本研究の成果から、地下部だけでなく地上部の特性についても耐乾性に関与する形質が見出され、本種を用いてサトウキビの耐乾性を両側面から総合的に改良する可能性を示すことが出来ました。

今後、国際農研は、サトウキビとエリアンサスの属間交配を通して、地下部および地上部における耐乾性に関わる形質の育種への応用可能性を検証する予定です。

 

(参考文献)
Takaragawa, H., Wakayama, M. Responses of leaf gas exchange and metabolites to drought stress in different organs of sugarcane and its closely related species Erianthus arundinaceus. Planta 260, 90 (2024). https://doi.org/10.1007/s00425-024-04508-w

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 寳川拓生)
 

 

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