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992. 気候変動によるワイン生産への影響

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992. 気候変動によるワイン生産への影響


気候変動はブドウの収量、ブドウ果実の成分組成、ワインの品質にも影響を与えています。その結果、ワインを生産できる地域にも変化がみられ始めています。3月26日、ボルドー大学のvan Leeuwen教授らによって総説『Climate change impacts and adaptations of wine production(気候変動によるワイン生産への影響と適応)』がNatureレビュー誌に発表されました。この総説の中で、気候変動による温度、降水量、湿度などの変化が世界のワイン生産に及ぼす影響について議論し、気候変動の影響を回避するための適応戦略について検討されています。

現在のワイン生産は主に温暖な気候の中緯度地域(米国カリフォルニア、フランス南部、スペイン北部とイタリア、オーストラリアのバロッサ、南アフリカのステレンボッシュ、アルゼンチンのメンドーサなど)に存在し、これらの地域は過度の暑さはなく比較的乾燥しているため病害を避けることができています。近年の気温の上昇によって、他の地域(ワシントン州、オレゴン、タスマニア、フランス北部)へのブドウ栽培適地の拡張や、英国南部のような新しいワイン産地が出現しています。また、世界中のほとんどのワイン生産地域では過去40年間で収穫が2~3週間早まり、収穫時のブドウの果実の成分組成が変化することでワインの品質やスタイルも変わってきています。

一方で、スペイン、イタリア、ギリシャ、南カリフォルニアの沿岸地域と低地地域にある伝統的なワイン産地の約90%が、気候変動に伴う過度の干ばつと頻発する熱波により今世紀末までに消滅する恐れがあると述べられています。温暖化には、ブドウの品種や台木、仕立て法、成熟を遅らせる栽培法へ変更することで、ある程度適応することができますが、持続可能なブドウ生産を今後も続けていくためには、将来の気温上昇のレベルに大きく依存しています。さらに、気候変動による新たな害虫や病気の出現、熱波や豪雨などワイン生産に課題をもたらしている地域がある一方で、これらの影響が少ない地域へのブドウ栽培の拡大によって天然資源の消費や野生生物の生息域に影響を与えることが懸念されるとも述べられています。


(参考文献)van Leeuwen C et al (2024) Climate change impacts and adaptations of wine production. Nat Rev Earth Environ.
https://doi.org/10.1038/s43017-024-00521-5


(文責:情報広報室 金森紀仁(ワインエキスパート))

 

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