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943. 最近の食料価格・食料サプライチェーン事情

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943. 最近の食料価格・食料サプライチェーン事情

 

世界銀行が1月22日にアップデートした食料安全保障に関するブログによると、国内食料価格は多くの国で高止まりしており、低所得国の63.2%、低中所得国の73.9%、高中所得国の48%、高所得国の46.3%が5%以上のインフレを経験しています。データのある165か国のうち73%において、食料価格のインフレは全体のインフレを実質的に上回りました。

世銀のブログはまた、中東における紛争のエスカレートが原油価格の高騰をもたらし、食料や肥料価格の生産・輸送コストに跳ね返るリスクに言及しました。それ以外にも、2023・24年のエルニーニョが熱帯作物価格に及ぼす影響、インドのバスマティ米以外のコメへの輸出規制、ロシアの黒海穀物イニシアチブからの離脱、金利上昇によるマクロ経済状況の悪化や為替変動、長期的な気候変動のインパクトなど、食料供給を寸断しかねない不確実性要因が数多くあります。ブログは、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、輸出国による貿易関連の規制が増加傾向にあり、2024年1月17日時点において、15か国が21の食料産品への輸出禁止措置を、11か国が14の輸出制限措置を実施していると報告しています。

 

1月17日に公表された国際食料政策研究所(IFPRI)のブログは、中東における治安問題の悪化が食料サプライチェーンに与える影響について検討しています。イエメンのフーシ派による紅海航行船舶の襲撃は、スエズ運河経由の輸送を麻痺させ、黒海やその他地域からの輸出業者に大幅なコスト高をもたらす迂回航路の検討を余儀なくさせています。

襲撃以来、紅海経由の貿易量は40%に落ち込んだと推計されています。2018-2020年のデータによると、世界の穀物貿易の14%、ダイズ貿易の4.5%がスエズ運河経由で取引されているとされます。紅海経由の食料輸入に依存するのは東アフリカや南アジア、東南アジア・東アジアの国々となります。サプライチェーン寸断が長期化すれば、輸入国の消費者がコスト増を負担することになり、調達先を振り替える必要性も出てくる可能性があります。

とりわけ東アフリカ諸国のスエズ運河経由の食料輸入依存度は非常に高く、例えばケニアのモンバサ港にとり、EUやロシア・ウクライナからの小麦輸送はスエズ運河経由が最も距離が短いのに対し、喜望峰経由の距離は二倍以上になります。紅海ルートの問題で、ケニアの輸入業者は、オーストラリア・アルゼンチンへと輸入先を変える必要が出てきます。既にロシアのウクライナ侵攻がサブサハラアフリカや南アジアへの小麦輸出に悪影響をもたらしているところ、ウクライナ離れは加速することが予想されます。また、近年、ウクライナからのメイズ輸入に依存してきた中国ですが、輸送コストが上昇していけば、調達先を切り替える可能性も出てきます。

ブログは、紅海の危機が最悪のシナリオに展開するとは言えない段階であるとしつつも、現在の混乱がサプライチェーンの脆弱性を晒し、輸入国にとって供給寸断危機に際し食料調達先を柔軟に多様化する必要性を認識させるきっかけになったと結論しています。

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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