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875. 2023年気温動向とCOP28に向けたストックテーキング
875. 2023年気温動向とCOP28に向けたストックテーキング
10月に入って以来、気温の乱高下にとまどう今日この頃です。
気象庁は今年の9月が1946 年の統計開始以降で 9 月として東・西日本では平年差を大きく上回り記録的な高温となったことを発表していましたが、世界でも同様の記録が報告されています。
10月5日、世界気象機関は、2023年9月の平均気温が16.38℃と、2020年9月に記録された最高気温を0.5℃も上回り、1850-1900年9月の記録よりも1.75℃、1991-2020年9月のベースラインよりも0.93℃高かったと報告しました。このことは、2023年6月以降、世界の陸域・海域の双方で前例のない高温記録を更新していることを意味します。2023年1月~9月の平均気温は史上最も暑かった2016年の同時期よりも0.05℃、1850-1900年平均よりも1.4℃高い値を記録しました。ヨーロッパは史上最も暑く、2020年の記録を1.1℃上回りました。9月の海面気温(60°S–60°N)は20.92℃と9月として最高気温、2023年8月に次ぐ史上最高気温を記録する一方、南極の冬季の海氷面積はこの時期としては最低値を記録しています。今年おわりにかけエルニーニョ現象の展開によっては環境と社会に連鎖的なインパクトをもたらしかねません。
この2023年9月の世界平均気温は、2023年11月末~12月初旬にかけアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催予定の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議 (COP28)向けの報告書でも発表されました 。COP28では、パリ協定で合意された産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満・出来る限り1.5℃未満に抑制するための温室効果ガス排出努力に関して、各国が決めた貢献(Nationally Determined Contribution:NDC)の現状把握(stocktaking)が行われる予定です。
One Earth誌で最近発表された論考は、パリ協定を達成するためにより野心的なNDCsを打ち出す必要性を訴えました。 2021年11月にグラスゴーで開催されたCOP26 において各国が提出したNDCsは、今世紀中に地球温暖化を2℃以下に抑制する可能性を残すものの、パリ協定が謳う1.5℃以下に抑制するには不十分と見なされています。今年のCOP28では、パリ協定の進展をはかるためにグローバルレベルでNDCs達成度についての現状把握(Global Stocktake: GST)が行われる予定となっており、今世紀中の1.5℃目標達成に向けてより野心的なコミットメントが求められています。
論稿は、COP28のGSTにおいて各国政策策定者が次の3つの分野 - 二酸化炭素以外の温室効果ガス(non-CO2 gases)、二酸化炭素除去(Carbon Dioxide Removal: CDR)、森林破壊の食い止め(halting deforestation)、に焦点を当てるべきと提案しています。
二酸化炭素以外の温室効果ガス排出削減について、論考は、すぐに着手できる技術・方法として、天然ガスのパイプからの漏れの削減や冷媒回収、気候に優しい清涼剤などのほか、農業・食料システムからのメタン・亜酸化窒素排出削減につながる食生活のシフト・行動変容、などを挙げています。
二酸化炭素除去(CDR)に関しては、植林・森林再生といった慣行のほか、バイオ燃料CO2回収貯留といった新規の工学的技術について、R&Dを加速し、評価・検証していく必要性が指摘されています。CDRに関する投資は近年増加していますが、少数の国に集中し、植林や直接空気回収技術(direct air capture: DAC)に限定される傾向にあり、CDRのコストが高止まりする原因となっています。論考は様々なCDRについての幅広い投資を呼びかけると同時に、多くの国々はカーボン取引メカニズムに依存せざるを得ず、その際にダブルカウントとならないよう報告・評価システムの厳格な適用の呼びかける一方、ローカル・地域・グローバルなスケールにおいて生物多様性・食料水安全保障などCDRのシナジーとトレードオフに配慮する必要性を訴えました。
森林破壊の食い止め・反転について、論考はグラスゴーにおける森林破壊・土地利用変化ゼロのコミットメントについて言及し、熱帯林地域における換金作物(パーム・ダイズなど)による非持続的な土地利用慣行をモニタリングし、持続的な森林管理に対する誘因の重要性を強調します。
以上の論考の3つの点は、農林水産業における温室効果ガス排出削減イノベーション・持続的な資源管理および行動変容が、パリ協定の1.5℃目標達成にとって極めて重要な役割を果たすことを意味しています。
(参考文献)
Gokul Iyer et al, Taking stock of nationally determined contributions: Continued ratcheting of ambition is critical to limit global warming to 1.5°C, One Earth (2023). https://doi.org/10.1016/j.oneear.2023.08.019
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)