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849.イネの根のかたちの改良によりリン吸収が上昇する

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849.イネの根のかたちの改良によりリン吸収が上昇する

リンは窒素とカリウムと並び植物における三大栄養素のひとつであり、植物の生育のためには十分量のリンの供給が必要です。自然界の土壌は一般的にリンの供給に乏しいことから、農地ではリンの施肥によって作物の生産性を上げています。しかし、マダガスカルなどのアフリカ諸国に分布する酸性風化土壌に代表される土壌はリンの供給力に乏しいうえ、これらの地域の農民は経済的な理由で肥料の購買力に乏しいことから、これらの地域の作物はリン欠乏に陥っています。このような環境においては、植物のリン吸収能力の改良により作物の収量が改善することが考えられます。これまでに、国際農研は、PSTOL1遺伝子による冠根の増加や、根圏の発達がリン吸収に貢献することなどを発表してきました。これらの知見から、根のかたちの改良によりリン欠乏圃場におけるリン吸収が上昇することが考えられますが、植物の持つ種々のタイプの根のうち、どのような種類が特にリン吸収に貢献するか、また、どのような遺伝子座がその改良に有用かについては、極めて限られた知見しか得られていませんでした。

国際農研は、東京大学と共同で、リン欠乏圃場における根形態を解析し、QTLマッピングと呼ばれる手法により、根のかたちと関わる遺伝子座の特定を進めたほか、それらの遺伝子座がリン欠乏圃場でリン吸収を促進するかを検証しました。

リン吸収能力が低く、アフリカで広く栽培されるNerica4、および優れた根のかたちを持つ南アジア原産のDJ123を親とした交配集団をリン欠乏圃場で生育させ、冠根および側根の微細構造を観察しました。その結果、比較的太くて長い、L型側根および微細な側根であるS型側根(図1)それぞれの長さと密度、また冠根の数において、集団内で大きな差異が確認されました。次世代シーケンスにより取得した遺伝情報をもとに、統計解析(QTL解析)を行った結果、3本の染色体に、L型およびS型側根それぞれの密度、S型側根の長さ、および冠根の数の系統間差異を説明する遺伝子座が検出されました。これらの遺伝子座のいずれにおいても、現在幅広く育てられている陸稲系統のNerica4ではなく、DJ123の遺伝子型が望ましい形質を付与することも明らかとなりました。

リン濃度の解析と、ステップワイズ回帰分析とよばれる統計解析からは、これまで知られていた冠根の数の他に、冠根上のL型側根の密度およびL型側根上のS型側根の密度といった、これまで未探索であった形質がリン吸収を促進することも示唆されました。

この研究成果は、これまであまり知られていなかった、異なる根タイプのリン吸収への貢献を示し、リン吸収に有利な根のかたちを明らかにしました。また、検出された遺伝子座のいずれにおいてもDJ123の遺伝子型が有利な形質を付与したことから、この研究成果は、これらの根のかたちに関わる遺伝子座を利用した育種により、Nerica4をはじめとするイネ品種のリン吸収の上昇が可能であることを示します。

 

(参考文献)
Dinh, LT., Ueda, Y., Gonzalez, D., Tanaka, J.P., Takanashi, H., Wissuwa, M. (2023) Novel QTL for lateral root density and length improve phosphorus uptake in rice (Oryza sativa L.) Rice 16, 37. https://doi.org/10.1186/s12284-023-00654-z

 

(文責:生産環境・畜産領域 植田 佳明、食料プログラム 中島一雄)
 

 

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