硝酸イオンの吸収がイネにおけるリンの利用を促進する
低リン水耕条件のイネでは、アンモニウムイオンのみを窒素源とするより硝酸イオンも同時に窒素源として用いた方がリン利用効率が高い。また、リン利用効率が高いイネ系統は硝酸イオンをより多く吸収する傾向が見られる。イネにおける硝酸イオンの利用能力の増強や硝酸イオンを多く含む施肥により、圃場におけるリン利用効率を向上させる可能性がある。
背景・ねらい
植物の三大栄養素のひとつであるリンは将来的に枯渇が懸念されている。また、昨今の肥料価格高騰も重なり、特に食料需要の高い開発途上地域においてはリン施肥が不足しがちである。これらの地域で特に重要な作物であるイネの安定生産には、施肥したリンの吸収(リン吸収効率)、および吸収したリンあたりのバイオマス生産能力(リン利用効率)を改善したイネの作出が喫緊の課題となっている。しかし、イネのリン利用効率には多数の遺伝的要因が関わっており、その仕組みは未解明のままである。一方で、リン利用効率の高いイネ系統において、窒素含有化合物の含量が高く、窒素代謝とリン利用の関連が示唆されている。そこで本研究では、主要な窒素源のうち、硝酸イオンとアンモニウムイオンの吸収がイネのリン利用効率に与える影響に焦点を当て、窒素利用とリン利用効率との関係を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 低リン水耕条件では、アンモニウムイオンのみを窒素源とする場合と比較して、硝酸イオンを添加した場合、イネの根におけるリン濃度が有意に低く、リン利用効率が高い(図1)。
- 過去にリン利用効率が調べられている5つのイネ系統を比較すると、リン利用効率が高い系統(Mudgo, Yodanya, DJ123)では、リン利用効率が低い系統(IR64, Taichung)に比べて、窒素源として硝酸イオンへの依存度が高く、かつ、イネにおいて硝酸イオンの吸収に主に寄与すると考えられるNRT1.1B遺伝子の発現量が高い(図2)。一方、リン利用効率が高い系統では、アンモニウムイオンの吸収に寄与する主な輸送体のひとつであるAMT1;1遺伝子の発現量が有意に低い(図2)。
- 低リン条件下での水耕栽培における硝酸イオンの吸収効率と圃場における根のリン吸収効率の相関は高い(図3)。
- これらの結果は、硝酸イオンの利用により、リン利用に重要な2つの要因である、根圏からのリン吸収効率と、リン利用効率の両方が上昇することを示唆する。また、硝酸イオンの利用が根圏リンを可溶化し、リン吸収効率を高めるという、過去に提唱された仮説を支持し、リン利用の新たな側面を示唆する。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、低リン条件においてリンの利用を促進する効果的な窒素施肥条件の探索に活用されうる。
- 本成果は水耕栽培により得られた結果であるため、今後の土耕試験において、異なる窒素施肥条件によるリン利用効率への効果を検証する必要がある。
- 育種の標的となる遺伝子については今後の研究により解明する必要がある。
具体的データ
- 分類
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研究
- 研究プロジェクト
- プログラム名
- 予算区分
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交付金
- 研究期間
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2020~2022年度
- 研究担当者
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植田 佳明 ( 生産環境・畜産領域 )
ORCID ID0000-0002-4304-368X科研費研究者番号: 70835181Wissuwa Matthias ( 生産環境・畜産領域 )
科研費研究者番号: 90442722 - ほか
- 発表論文等
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Ueda and Wissuwa (2022) Plant and Soil 481: 547–561.https://doi.org/10.1007/s11104-022-05655-3
- 日本語PDF
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2022_B04_ja.pdf632.27 KB
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2022_B04_en.pdf377.52 KB
※ 研究担当者の所属は、研究実施当時のものです。