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811. 肥料が効かない?ササゲの世界的な生産地、西アフリカスーダンサバンナにおける収量安定化を目指して

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811. 肥料が効かない?ササゲの世界的な生産地、西アフリカスーダンサバンナにおける収量安定化を目指して

ササゲ(Vigna unguiculata)はマメ科、小豆の仲間で国内では温暖な地域を中心に小豆の代用品として赤飯にも使用されます。ササゲの故郷はアフリカ西部のギニア湾沿いの地域で、そこで栽培されるササゲは全世界における生産量の9割以上になります(FAOSTAT, 2023)。ササゲは乾燥に強いことから雨の少ない西アフリカ内陸部(スーダンサバンナ)でも栽培が可能です。同地域では栽培可能な作物の種類が少ないため、ササゲは現地に暮らす人々の重要なタンパク質供給源であるばかりでなく、換金性が高いことから農家の数少ない現金収入源の一つにもなっています。そんなササゲですが、スーダンサバンナにおける面積あたりの収穫量は土の肥沃度が低く雨も少ないために、アジアや米国のおよそ4分の1しかありません。

肥沃度の低い土壌で収穫量を増やす最も手っ取り早い方法は肥料を与えることです。しかし、肥料価格が高いことに加え、施肥しても期待するほど収穫が増えないため、一般的な農家のササゲ栽培では肥料はほとんど使用されていません。国際農研では、スーダンサバンナの代表的な国であるブルキナファソの環境農業研究所(INERA)の研究者と共同でササゲの研究を続けており、そのなかでも特に土の種類に着目して収穫量との関係解明に取り組んできました。今回、肥料の効果的な利用法とそれを活用した新しい栽培方法の開発に繋がる成果が得られました。

スーダンサバンナでは、層が厚く水持ちのよい土(Lixisols)と層が薄く水持ちが悪い土(Plinthosols)の2種類の土が広く分布します。土の種類は川からの距離に応じて狭い範囲で変化するため(Ikazakiら、2018)、一件の農家のなかでもLixisolsの畑とPlinthosolsの畑が混在します。これまでの研究によって、同じ降水量でも土の種類によって根の周囲が過湿や乾燥状態となり、それが局所的な収量変動の原因であることが分かっていました(Isekiら、2021)。今回の研究では、この土の種類によって肥料の効果が異なり、土層が薄いPlinthosolsはもう一方のLixisolsよりも施肥効果が20%高いことを明らかにしました。さらに、施肥を基肥と追肥の2回に分けて半分ずつ与えた場合、ササゲが効率的に栄養分を吸収することができるため、基肥で全量を与えた時よりも収量が平均で14%増えることが分かりました。土による施肥効果の違いはLixisolsで発生する過湿害の影響と考えられ、これまでに乾燥ストレスばかりが研究の対象となっていたスーダンサバンナにおいて、土壌の一時的な水分過剰が肥料効果を制限していることが分かったことは今後、それぞれの栽培場所に適した新しい栽培手法開発するうえで重要な知見となります。

本成果は、国際誌Field Crops Researchに、Heterogeneity effects of plant density and fertilizer application on cowpea grain yield in soil types with different physicochemical characteristicsと題して発表されました。

 


(参考文献)
FAOSTAT (2023) Statistical database of the Food and Agriculture Organization of the United Nations. https://www.fao.org/faostat/en/#data

 

Ikazaki, K., Nagumo, F., Simporé, S., Barro, A. (2018). Soil toposequence, productivity, and a simple technique to detect petroplinthites using ground-penetrating radar in the Sudan Savanna. Soil Sci. Plant Nutr. 64, 623–631.
https://doi.org/10.1080/00380768.2018.1502604

Iseki, K., Ikazaki, K., and Batieno, B. J. (2021). Cowpea yield variation in three dominant soil types in the Sudan Savanna of West Africa. Field Crops Res. 261, 108012. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S037842902031296X?via…

Iseki, K., Ikazaki, K., and Batieno, B. J. (2023). Heterogeneity effects of plant density and fertilizer application on cowpea grain yield in soil types with different physicochemical characteristics. Field Crops Res. 292, 108825
https://doi.org/10.1016/j.fcr.2023.108825

 

(関連するページ)
アフリカ小規模畑作システムの安定化に資する生産性・収益性・持続性を改善する土壌・栽培管理技術の開発【アフリカ畑作システム】
https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b6

スーダンサバンナにおけるササゲ生産を広範囲で改善するための品種選抜法
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2020_b04

生物資源・利用領域の井関研究員が日本作物学会研究奨励賞を受賞
https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2020/r20200413

(文責:生物資源・利用領域 井関洸太朗)

 

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