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803. 2023年6月食料見通し

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803. 2023年6月食料見通し

2023年6月15に公表された国連食糧農業機関(FAO)による食料見通しは、多くの食料産品について生産が増加あるいは多少減少しても十分な備蓄を予測する一方、世界の食料システムが異常気象・地政学的緊張・デリケートな需給バランスのリスクに直面しており、政策変化や他の市場における動向が食料価格高騰や世界の食料安全保障危機に転じる懸念について言及しました。

食料見通し報告書によると、2023年の世界食料輸入額は1.98兆ドルと、前年より1.5%増加して史上最高額に達する見込みと発表しました。他方、世界食料価格の上昇により脆弱な国々での食料需要が落ち込んだことで、2022年度の11%、2021年の18%に比べ、輸入額の増加率は鈍化しました。

2021年初頭以来、インフレ指標として使われる消費者価格指数(CPI)は過去数十年経験したことのない水準を示しています。最近のインフレ上昇は、主に、商品価格の上昇、サプライチェーンの寸断、そしてCOVID-19パンデミックによる経済活動の鈍化に対応するための積極財政による需要喚起、の3要因に起因します。インフレによって、長期にわたるマクロ経済的な影響にとどまらず、社会不安をもたらす可能性が懸念されています。

食料見通し報告書は、食料の純輸入国である途上国にとり、国際穀物価格の上昇が、為替レート等の動向を受け国内価格にどの程度波及したのかというテーマを、特集として取り上げています。途上国においては多くの食料品の国際価格の下落が国内小売価格の下落に反映されず、2023年も引き続き生活費上昇圧力がかかっています。2007-2008年の世界食料価格危機の際には、米ドルの通貨価値下落が食料輸入国にとっての食料価格上昇を一部相殺したとのことですが、近年では逆の傾向が観察されています。例えば2022年4月から9月にかけ、世界のメイズ価格は10.2%下落しましたが、純食料輸入途上国の現地通貨建ての実質価格では4.8%しか下落しませんでした。報告書は、社会不安や食料安全保障危機の回避のために、食料インフレ対策に向けた賢明な介入の必要性を指摘しました。


(参考文献)
FAO. 2023. Food Outlook – Biannual report on global food markets.  Food Outlook, June 2023. Rome. 
https://www.fao.org/documents/card/en/c/cc3020en

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)


 

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