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572. 高温不稔を軽減するイネ早朝開花性の利用

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572. 高温不稔を軽減するイネ早朝開花性の利用

今年は猛暑年でしょうか?暑いですね。東京都心では、6月25日に最高気温が35.4度を記録し、記録が残る1875年(明治8年)以降では、最も早い猛暑日となったようです。このような高い気温が続くと、イネの生産にも影響が出てきます。イネは開花時に高温に対する感受性が最も高く、35℃以上の高温に1時間でもさらされると、受精ができず不稔(空籾)が発生することが知られています。広範囲で記録的高温となった2018年には、不稔が通常より高い割合で発生したとの報告がなされています(農研機構プレスリリース)。 高温による不稔の発生リスクは、熱帯地域でも高まっています。国際農研では、開花時の高温を避けるため、朝早く涼しい時間に花を咲かせようというユニークな発想に基づき、それを可能にする早朝開花性(EMF; early morning flowering)の研究を進めています。

熱帯地域で広く普及しているインディカ品種(IR64)に、早朝開花性を付与した系統(IR64 +qEMF3)を育成しました(研究成果情報)。 実際に、ミャンマーの高温地域では、IR64 +qEMF3は1時間以上早く開花し、高温不稔の発生が低く抑えられている事が分かりました。その結果、日中の最高気温が36℃以上の場合、IR64 +qEMF3は、高い稔実率を維持することができ、それが安定した収量に寄与することが示されました。この研究成果は、早朝開花性が高温地域でイネの生産性に寄与することを実証した、最初の圃場レベルの研究となりました(Ishimaru et al. 2022a)。 

また、今後は気候変動による降水量の変化が予測されており、水不足による乾燥ストレス条件下でいかに作物生産を確保するかが重要だと考えられます。乾燥ストレス圃場では、植物体の蒸散が制限され、穂の温度が上昇します。IR64 +qEMF3は乾燥ストレス圃場でも早朝の時間帯に開花でき、IR64に比べて穂の温度が著しく低く抑えられていました。国際稲研究所で育成した乾燥ストレス耐性のイネ系統の中には、高温に対して感受性の系統もあり、早朝開花性が、乾燥ストレス耐性育種の取り組みを補完できる可能性が示されました(Ishimaru et al. 2022b)。 

早朝開花性の活用によって、高温不稔を軽減するイネの品種開発が進むと期待されます。

(関連記事)

農研機構プレスリリース
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/148782.h…

国際農林水産業研究成果情報:
熱帯のイネ品種の遺伝的背景を持つ早朝開花性準同質遺伝子系統の育成
https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2014_a02

Ishimaru, T., Hlaing, K. T., Oo, Y. M., Lwin, T. M., Sasaki, K., Lumanglas, P. D., ... & Htun, T. M. (2022a). An early-morning flowering trait in rice can enhance grain yield under heat stress field conditions at flowering stage. Field Crops Research, 277, 108400. https://doi.org/10.1016/j.fcr.2021.108400

Ishimaru, T., Sasaki, K., Lumanglas, P. D., Carlo, L. U. C., Ye, C., Yoshimoto, M., ... & Henry, A. (2022b). Effect of drought stress on flowering characteristics in rice (Oryza sativa L.): A study using genotypes contrasting in drought tolerance and flower opening time. Plant Production Science. https://doi.org/10.1080/1343943X.2022.2085589


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(文責:生物資源・利用領域 佐々木和浩)