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557. バイオマスから、バイオ燃料やバイオ化成品製造に必要なグルコースを、効率よく安価に得るための糖化技術の開発

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557. バイオマスから、バイオ燃料やバイオ化成品製造に必要なグルコースを、効率よく安価に得るための糖化技術の開発

農業分野からの温室効果ガス排出量は、世界全体で年間54.1億トン(CO2換算2017年)であり、気候変動に深刻な影響を与えています。大規模農業生産により副次的に生じる膨大な量の農産廃棄物や、我々の生活から廃棄される繊維や古紙などのセルロースバイオマスは、自然界での分解が難しく、これらのセルロースバイオマスの廃棄や焼却によって発生するCO2排出量は、世界全体で3億トン以上に及びます。

地球規模で進行する気候変動に対処し、更なる環境悪化を阻止するには、温室効果ガス削減へ向けた技術開発が不可欠であり、我が国の「2050年カーボンニュートラル宣言」目標達成に向けて、廃棄物の再資源化やアップサイクルを推進する持続的な資源の管理・利用システムの構築が強く求められています。

国際農研とタイ国キングモンクット工科大学トンブリ校(以下、KMUTT)の共同研究グループは、農作物の収穫時や加工時に出てくる茎葉、皮、粕、ならびに生活廃棄物として出てくる食品残渣、繊維廃棄物、紙ゴミなど、セルロースを主体とするバイオマスから、バイオ燃料やバイオ化成品製造に必要なグルコースを、効率よく安価に得るための糖化技術の開発を行っています。

セルロースは地球上で最も豊富な資源とされていますが、その糖化には、これまでカビの培養によって生産されるセルラーゼ酵素を大量に使用することが必要でした。しかし、セルラーゼ酵素はリサイクルが難しく、その購入や調整に費用を要します。セルラーゼ酵素を用いたバイオエタノール生産では、原料費に次いでセルロース糖化コストが高価となっており、製造費の約3~4割を占める点が実用化の障壁となっていました。
 
今回、国際農研とKMUTTが開発した「微生物糖化法」は、酵素添加を一切必要とせず、微生物培養だけでセルロースをグルコースに変える画期的な技術です。この技術はセルロース高分解菌とβ-グルコシダーゼ生産菌を一緒に培養することでセルロース分解能力と糖の嗜好性、酵素の働きを止めてしまうセロビオースの反応をうまく利用しました。

微生物は何度でも繰り返し培養でき、増殖の際に自らセルロース分解に必要な酵素を生産するため、セルラーゼ酵素の購入が不要となります。これによって低コスト化が図られることから、国内で年間約170万トンと見積もられる廃棄綿繊維など、再資源化が進まなかった材料への適用も期待されます。

また、混紡(綿とポリエステルの混合生地)を使った微生物糖化実験では、綿繊維部分だけを完全にグルコースの糖液に変え、ポリエステル資源を100%回収できることを確認しており、グルコース糖液は、エネルギーや燃料、プラスチック原料への再資源化が可能です。


(プレスリリース)
https://www.jircas.go.jp/ja/release/2022/press202203

(文責:生物資源・利用領域 小杉 昭彦、鵜家 綾香)

 

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