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556.ゲノム予測モデルが明らかにする穀粒中の亜鉛濃度が高い品種の開発に利用できるイネ遺伝資源

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556.ゲノム予測モデルが明らかにする穀粒中の亜鉛濃度が高い品種の開発に利用できるイネ遺伝資源

亜鉛(Zn)は、何千もの酵素の構成要素であり、遺伝子発現やタンパク質合成の重要な調節因子であるため、人間にとっても、植物にとっても必須な元素です。Zn欠乏症は世界的な健康問題であり、特に乳幼児において深刻です。免疫系の機能を損ない、発育を遅らせ、最も目に見える症状として発育不全を引き起こします。Znの摂取不足の解消は、持続可能な開発目標(SDG2.2)の最優先事項の一つです。この達成には様々なアプローチがありますが、作物の可食部におけるZn、鉄(Fe)、プロビタミンAカロテノイドの濃度を高めた作物を育成するアプローチはバイオフォーティフィケーション(Biofortification)と呼ばれています。このバイオフォーティフィケーションは、農村部の微量栄養素の栄養失調を緩和する非常に有効な手段であると考えられています。

マダガスカルは依然として低所得国であり、栄養失調がよく見られます。農村部では、50%の子どもが発育阻害と低体重に苦しみ、世界で最も高い割合です。中央高地では発育阻害が最も多く(60%)、国際農研と現地パートナーによる最近の調査では、人口の80%が十分な量のZnを摂取できていないと推定されています。マダガスカルの食生活には、コメは欠かせないものであり、1日3回食べ、1日のカロリー摂取量の50%を占め、1人当たりの消費量は年間136kg以上と推定されています。このようにマダガスカルの食料供給において卓越した地位を占めるコメは、栄養摂取の面からみて重要な介入対象です。

通常、精白米のZn濃度(コメZn濃度)は1日の必要量を十分に供給するには低すぎるため、コメを主食とする家庭で、ミネラルが豊富な果物や野菜、肉などを加えて食事を多様化する余裕がない場合には、Zn不足が蔓延しています。この欠乏を克服し、Zn欠乏症を大幅に改善するためには、コメZn濃度を50%以上高める必要があります。したがって、コメZn濃度がより高いイネ品種の開発は、依然として世界的に重要な目標であり、Zn欠乏症という根強い問題に対する低コストで長期的な解決策でもあります。

国際農研は、マダガスカル国立農村開発応用研究センター(FOFIFA)、東京大学、オーストリア・フリンダース大学、フランス・CIRADと共同で、国際稲研究所(IRRI)のイネ・ジーンバンクに登録されている遺伝資源(アクセッション)のコメZn濃度に関する遺伝子型の変異について調査しました。マダガスカルの2つの圃場で253点のイネ遺伝資源を栽培し、コメZn濃度と収量を測定しました。このデータをもとにゲノムワイド関連研究(GWAS)を行い、その基礎となる遺伝要因を同定したところ、8つの遺伝要因が確認されました。11番染色体上の最も影響力のある遺伝子領域(遺伝子座)は、コメZn濃度を15%増加させました。さらに、この253点のイネ遺伝資源をトレーニングセットとして用いることによりゲノム予測モデルを開発し、それを用いてIRRIで利用可能な3000点のイネ遺伝資源についてコメZn濃度を予測することに成功しました。

その結果、aus群に属する遺伝資源が最も高いコメZn濃度であることが予測され、このことは圃場実験でも確認されました。いくつかのaus群遺伝資源は穀粒中に40ppm以上のZnを含有していましたが、マダガスカルの標準品種ではわずか17ppmでした。また、インディカとジャポニカの最も高いコメZn濃度は約30ppmでした。我々は、コメZn濃度の高いaus群遺伝資源をドナーとして用い、ゲノム選抜と組み合わせることが、コメZn濃度を改善するための最も有望な育種アプローチであると結論づけました。

この成果は、国際学術誌「Theoretical and Applied Genetics」に「Genomic prediction of zinc-biofortification potential in rice gene bank accessions」というタイトルで掲載されました。

Rakotondramanana, M., Tanaka, R., Pariasca-Tanaka, J. et al. Genomic prediction of zinc-biofortification potential in rice gene bank accessions. Theor Appl Genet (2022). https://doi.org/10.1007/s00122-022-04110-2

(文責:生産環境・畜産領域 Matthias Wissuwa・田中ファン、食料プログラム 中島一雄)


 

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