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494. 土地利用の持続性に関する10のファクト

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494. 土地利用の持続性に関する10のファクト

土地利用は、生物多様性保全、気候変動、食料安全保障、貧困削減、持続的なエネルギーなど、様々な側面から持続性に絡んできます。社会―生態学的な土地利用システムに関する知見は、土地利用の問題を持続的に解決する上で重要な役割を果たします。にもかかわらず、例えば世界には誰のものでもない土地がたくさんあるなどの誤った考えが流布し、簡単に解決できる策があるとの歪んだ考えも生み出すこともあります。

2022年2月、PNAS誌で、文献レビューに基づき、土地利用の持続性に関する10のファクトをとりまとめた論文が公表されました。それらファクトは抽象的にまとめられていますが、概要を紹介します。
 

1) 土地の意味と価値は社会的に構築され、常に争いの対象となります。Meanings and values of land are socially constructed and contested; 

2) 土地システムは突然の予測しがたい変化を伴い、複雑な様相を示します。land systems exhibit complex behaviors with abrupt, hard-to-predict changes; 

3) 不可逆的な変化と経路依存性は、土地システムにありがちな特徴です。irreversible changes and path dependence are common features of land systems; 

4) 土地利用の中には環境負荷は小さくとも大きなインパクトを持つケースもあります。some land uses have a small footprint but very large impacts; 

5) 土地利用変化の要因とインパクトは世界的に連関し、遠隔地にもその影響が及ぶことがあります。drivers and impacts of land-use change are globally interconnected and spill over to distant locations; 

6) 全ての土地は人間社会に貢献してきました。humanity lives on a used planet where all land provides benefits to societies; 

7) 土地利用変化は通常、異なる利害の間でトレードオフを持ち、Win-Winのケースは稀です。land-use change usually entails trade-offs between different benefits—"win–wins" are thus rare; 

8) 土地制度と土地利用を巡る権利主張はしばし不明確で、権利が重複し、争議を伴います。land tenure and land-use claims are often unclear, overlapping, and contested; 

9) 土地からの便益と負担は平等に分配されません。the benefits and burdens from land are unequally distributed; 

10) 土地利用は、社会・環境的正義は何かという点について、しばし競合しあう異なる複数の考えを伴います。land users have multiple, sometimes conflicting, ideas of what social and environmental justice entails. 

 

以上の意味するところについて、1)を例に、もう少し詳しく紹介します。土地はまず何よりも生物物理学的に現実に存在するものです。しかし同時に、人類にとっての住処であり、ランドスケープを構築し、文化的・象徴的に位置づけられます。土地の価値・便益は、土地に住み、使用し、つかさどる異なる人々の信条や視点を反映して、必然的に社会的に構築されます。土地は権利・特権の源であり、あるいは地政学的目的から専有すべき空間であり、また生業や補助金や地代を含む経済利益の源泉でもあります。土地の意味と価値は時間とともに大きく変容し、土地の使用と期待される便益に関する主張に影響を及ぼします。例えば、土地の劣化と回復の概念は生物物理学的に定義されますが、社会的に意味づけられ、したがって潜在的に大きな論議を伴います。特定の土地システムの変化、例えば有機物の喪失は土壌劣化と定義されますが、こうした側面にとどまりません。例えば移動農業とそれに伴う焼畑は、しばし議論を呼ぶ伝統的な土地利用慣行です。これらの慣行が劣化に繋がるかどうかの判断は、民族中心的価値にもより、簡単ではありません。こうした定義に関する不確実性を反映して、世界における土地劣化の推計は10 – 60 Mkm2の幅があり、したがって国連砂漠化対処条約(UNCCD)やSDGsにおける土地の劣化の中立性(LDN:Land Degradation Neutrality)達成のための国際的なイニシアチブでの解釈を困難にします。これらの複数の価値・意味の存在は、多様な知識・価値システムの間を取り持つ土地ガバナンスプロセスの必要性をあぶりだします。複数の価値・意味の存在を理解すれば、何故、一つの支配的な価値システムに根付いたトップダウンの政策アジェンダが論議を呼び、抵抗にあうのかを説明できます。

 

これらの10のファクトは、ガバナンスにとって重要な示唆を与える一方、絶対的な回答は提供しません。代わりに、研究者や政策策定者が土地利用における持続性課題に取り組む際に、次のような指針を提供してくれます。

  • 土地問題への公正な解決法は、公正・権威についての複数の解釈に関する多様な観点、信条、価値を認めることである。
  • 特効薬(Silver Bullets)や万能策(“One-Size-Fits-All” Panaceas)を避け、現場ごとに適応的な解決策をとる方が成功率は高まる。
  • 土地システムのガバナンスは、空間・時間的スケールでの波及効果に配慮することで、より効果を増す。
  • 最初から望ましくない不可逆的なインパクトを防ぐような政策・管理の方が、後から土地の回復を試みるよりも大きな便益をもたらす。
  • シナジーを伴うような土地利用意思決定は重要であるが、不可避なトレードオフの緩和や需要の管理を伴うことが必要である。
  • 格差拡大を回避するために、ガバナンス介入は格差と不確実な土地保有制度に表立って向き合う必要がある。

 

(参考文献)
Patrick Meyfroidt, et al. Ten facts about land systems for sustainability. Proceedings of the National Academy of Sciences Feb 2022, 119 (7) e2109217118; https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2109217118

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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