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486. 国際農研が農研機構と共同で育成したサトウキビ新品種の一般農家への種苗配布が開始
486. 国際農研が農研機構と共同で育成したサトウキビ新品種の一般農家への種苗配布が開始
サトウキビ(Saccharum officinarum L.)は、世界の砂糖の約8割、バイオエタノールの約4割を生産する世界の食料・エネルギー生産にとって重要な資源作物です。日本では、南西諸島の基幹作物として栽培されており、砂糖の国内自給率維持だけでなく、島嶼地域の社会・経済の維持にとっても重要な役割を果たしています。
国際農研では、サトウキビの不良環境への適応性の改良や生産性の持続的な向上等を通して、世界の食料・エネルギー生産や南西諸島の持続的発展等に貢献することを目指して、サトウキビ野生種等の有用な特性を持つ未利用遺伝資源を品種開発に利用するための研究開発を行っています。
サトウキビの栽培では、地上部を収穫した後に地下に残る株から茎を再生させる株出し栽培が行えます。株出し栽培は、株から再生する茎を収穫するため、植え付け作業が必要なく、栽培にかかる生産コストや投入エネルギーが少ないメリットがあります。そのため、株出し栽培での生産性が高く、多数回継続できることがサトウキビ生産にとって重要になります。しかし、南西諸島では、冬季の低温や夏期の干ばつ、台風などの厳しい自然環境の影響から株出し栽培で再生する茎の数が少ないため収量が低く、継続回数も少ないことが課題となっています。さらに近年、機械収穫面積の急激な増加に伴い、機械収穫時の株の引き抜きや踏圧により、株の再生が更に悪化することによる収量の低下が懸念されています。
そのような現状に対応するため、国際農研は農研機構と共同で、サトウキビ野生種との種間交配を利用した日本初の製糖用サトウキビ品種「はるのおうぎ」を育成しました(品種登録番号:28825号、登録年月日2021年12月24日、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_b06)。「はるのおうぎ」は、茎数が多く収穫後の地下株からの再生が優れるサトウキビ野生種の特徴を製糖用サトウキビに導入した品種です。株の再生が旺盛であるため、株出し栽培での茎数が極めて多く、既存品種より株出し栽培での茎の収量や砂糖の生産量が1.5倍近くになります(服部ら、2021)。また、機械収穫でも株の再生が旺盛であることから、機械収穫後の株出し栽培にも適しており、株出し栽培の継続回数の増加も期待できます。
この新品種「はるのおうぎ」の普及に向けて、鹿児島県熊毛地域と奄美地域の一般農家への種苗配布が令和4年2月から開始されました(https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/151342.ht…)。同品種が普及することで、サトウキビ収量が減収傾向にある熊毛、大島地域において、株出し栽培での生産性向上を通したサトウキビの増産が期待されています。
参考文献
・国際農研 国際農林水産業研究成果情報:https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_b06
・服部ら (2019) 農研機構研究報告, 2:21-44. https://doi.org/10.24514/00003206
・農研機構・国際農研プレスリリース
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/151342.ht…
(文責:熱帯・島嶼研究拠点 寺島義文)