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483. アフリカ農業開発のカギとなる土壌管理研究

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483. アフリカ農業開発のカギとなる土壌管理研究

今年はTICAD 8が控えているように、日本にとってのアフリカ開発指針が議論されますが、他国の動向も気になるところです。この2月に公表された、EUの対アフリカ戦略に関する報告書は、アフリカ―欧州協力政策の政治的優先分野として、(1)保健、(2)R&I(研究・イノベーション)キャパシティー、(3)技術とイノベーション、そして(4)グリーントランジション、を挙げています。本日は、グリーントランジション章から、EUのアフリカ農業開発の中心課題を紹介します。


報告書は、アフリカの包括的・持続的開発にとり、グリーントランジション(環境に優しい発展)の必要性を訴え、水の希少性、食料安全保障、エネルギー安全保障、気候変動、生物多様性とエコシステムサービスの喪失問題に取り組んでいくことを訴えます。その中で、アフリカは未だに食料安全保障の課題を抱えていること、とりわけ低所得国における農業の重要性から、健全な土壌管理を基盤とする強靭で持続的な農業がこれら課題の解決およびフードシステムの転換・グリーントランジションの実現に中心的な役割を果たすことを強調しました。そしてそのような農業モデルの開発には、EUとは異なるアフリカの農業気候土壌学的条件*(in-depth knowledge of how to deal with the rather contrasting edaphoclimatic conditions in Africa)に関する深い知識を要します。

アフリカは世界で最も高い出生率により、2050年までに人口の倍増が予測されています。この人口圧は既にストレスのかかったエコシステムに負荷をかけ、土地・環境劣化をもたらしかねません。人口を養っていくためには、次の数十年間でアフリカの農業生産性を倍増しつつ、非農業用地を保全し、農業への自然の転換や人為的活動による森林破壊を回避しなければなりません。

アフリカとヨーロッパの農業システムを強靭で持続的にするという共通のゴールを持っていても、そこに至る条件と解決法は全く異なることを認識する必要があります。ヨーロッパの土壌は形成されてから2万年以内と比較的若く、土壌の化学組成は、いい面(栄養素)も悪い面(重金属)も母材の岩石に近いということがあげられます。一方で、アフリカの土壌、とりわけサブサハラアフリカの土壌は、世界で最も古く、数百万年前に遡って形成されたとされます。その結果、アフリカの土壌とヨーロッパの土壌は全く異なります。アフリカの土壌は深く、酸性で、高いリン吸着性を持つアルミニウム含有量が高く、非常に肥沃度が低い、という特徴を持っています。このような土壌環境は作物バイオマス生産の主要な制約となります。したがって、ヨーロッパの若くて肥沃な土壌とは異なる管理慣行が必要とされます。

アフリカのグリーントランジションに向けた土壌管理の改善には、研究とイノベーションが必要です。もしアルミニウム毒性がきちんと対応されなければ、土壌に肥料やカーボンを投入しても作物の根は十分に発達しません。加えて、アフリカの農業気候土壌学的条件では、ヨーロッパに比べて、炭素・窒素・水の循環が早いと考えられます。その結果、土壌を耕すことで、炭素・窒素・水の域外への流出も大きくなります。

現在、ヨーロッパでは、とくに若く肥沃度の高い土壌条件では化学肥料の使用を削減・制限しようという議論があります。このような肥沃度の高い土壌では、肥料の過剰施用が土壌からの栄養溶脱による水質汚染をもたらすなどの問題を伴っています。しかし、サブサハラアフリカのようにもともと土壌の肥沃度が低い条件では、適切な肥料や土壌改良資材の施用は、作物や微生物のメタボリズムの適切な機能にとって欠かせず、作物バイオマス(高収量)、持続的な作物生産、そして食料栄養安全保障にとって重要な役割を果たします。

 

国際農研の研究者も、長年にわたり、アフリカの低い農業生産性を規定する土壌の化学性・物理性の解明にもとづき、次に紹介するようなアプローチで、農民に受け入れやすい施肥法・栽培管理法や品種開発、肥料開発を行ってきました。

肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上  
2017年5月に、マダガスカルを実施対象国として開始された国際共同研究プロジェクトです。国際農研がこれまでに蓄積した知見を活用し、土壌養分の簡易評価法の開発、土壌肥沃度に応じて少ない肥料で効率的にイネ収量を改善できる施肥技術の開発や自給的有機物資材の活用、低肥沃度環境でも優れた生産性をもつ新たな水稲品種の開発、など、上述した課題に関連する多くの成果を達成してきました。さらに、相手国の行政機関や普及プロジェクトと連携して、得られた研究成果の社会実装にも積極的に取り組んでいます。

ブルキナファソ産リン鉱石を用いた施肥栽培促進モデルの構築  
2017年5月からブルキナファソを実施対象国として、「肥料の地産地消」を目指 して活動しています。当国には1億トンのリン資源があり、それを活用した安価で施用効果の高い国産リン肥料製造法をブルキナファソ政府に提案することが目 標の一つです。これまで試作したリン肥料の施用効果は輸入肥料とほぼ同等であることを多くの圃場試験で実証してきました。最終的には、この貴重なリン資源 の総合的な活用方法を提言として取りまとめる予定です。

 

アフリカ農業開発には万能な方法はありませんが、TICADを機に、国際農研によるアフリカ現場での科学的アプローチを、Pick Upやその他の機会をとらえて紹介していきたいと思います。

 

Edaphoclimatic, … edaphology(農業あるいは応用土壌学) :土壌を研究する自然科学の一分野で,農林業的立場からの植物培地としての見方が強く打ち出されているエダフォロジーedaphology(農業あるいは応用土壌学) 。エダフォロジーの立場からは,農耕地,草地,林地などの土壌について,植物の土壌化学性,土壌物理性,土壌生物性への依存関係の解明,植物生産のための土壌の管理,改良の方法の考究などが中心の課題となる。

 

(参考文献)
European Commission, Directorate-General for Research and Innovation, Recommendations on how to make R&I a driver for sustainable development in AU-EU relations, Temmerman, M.eds 2022, https://data.europa.eu/doi/10.2777/619331

(文責:情報プログラム 飯山みゆき  生産環境・畜産領域 辻本泰弘、西垣智弘、南雲不二男)
 

 

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