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363. 樹木の葉の形態から生育環境を予測する–気候変動の影響予測に向けて

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363. 樹木の葉の形態から生育環境を予測する–気候変動の影響予測に向けて

固着性*の樹木はその場の環境に適した形態や機能を示すと考えられます.したがって,形態特性を調べることで,樹木の生育に適した環境を予測でき,最適な植栽環境や,気候変動によって分布がどのように変化するのか,予測につながることが期待されます.

熱帯林は地球上の樹木の多様性のホットスポットで,土壌や標高などの違いに応じ,見られる種が大きく変わることが知られています.一方で,どのような形態や機能を持った樹種がどの環境に出現するかについては,特に東南アジアの熱帯林においてよくわかっていませんでした.東南アジア最高峰のボルネオ島キナバル山(標高4,095m, 写真)においてマレーシアのサバ大学と行った研究から(Kawai et al. 2020),分厚く頑丈な葉をもつ樹種はより高い標高,かつより広い標高帯に分布することがわかりました.東南アジアの高標高部は低温に加え,多湿,強風等の複数の環境ストレスが卓越する場所であり,樹木は頑丈な葉をつけることで,光合成が可能な期間を最大化していることが示唆されました.また,樹木の水利用に関わる葉や材の形態特性は分布標高と関係せず,降水量が年間を通じて多く湿潤な場所においては,樹木の水利用は環境適応にあまり関与していないことがわかりました.一方で,種が現れる最低標高を決める特性については本研究では明らかにできず,更なる調査が必要だと考えられます.

その後,タイの科学技術研究所(TISTER)とカセサート大学との共同研究から,分布標高の予測において重要であるとわかった葉の特性は,土壌の乾湿傾度に沿った種の分布にも関係していることが,乾季のある東北タイにおいて確かめられました(Kawai et al. 2021). 今回調べた葉の特性は高価な機器や特別な分析環境がなくても測定が可能です.したがって,以上の知見の一般性を様々な環境や種で確立していくことで,簡便に測定できる形態特性を指標とした,林業品種の最適植栽環境の評価や,植栽後の気候変動の影響予測などに活用できると考えています.これらの成果は,東南アジアをはじめとする熱帯地域において,気候変動に頑健で生産性の高い林業の実現に貢献することが期待されます.

なお,ボルネオ島キナバル山で行なった研究により,河合研究員は第25回日本熱帯生態学会「吉良賞」奨励賞を受賞しました.

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金特別研究員奨励費(DC2)「形質に基づく樹木の環境適応メカニズムの解明:東アジアにおけるブナ科の例」と研究活動スタート支援「木部解剖学的特性にもとづく熱帯樹木の乾燥適応機構の解明」の支援を受けて実施しました.


*(Wikipediaより)固着性 というのは、何等かの方法で、生物の体が基盤上にくっつき、少なくとも簡単に移動できないような状態でその位置を固定され、移動せずに生活する性質のことを言う。 植物界に属するもの、および 藻類 でも大型のものは、基本的に固着性である。


(参考文献)
Kawai K, Ahmad B, Palle I, Okada N (2020) Variations of leaf and stem traits in relation to altitudinal distributions of 12 Fagaceae species of Mount Kinabalu, Borneo. Tropics 29:57–66 . https://www.jstage.jst.go.jp/article/tropics/29/2/29_MS19-14/_article

Kawai K, Waengsothorn S, Leksungnoen N, Okada N (2021) Functional differentiation among 12 dipterocarp species under contrasting water availabilities in Northeast Thailand. Botany 99:321–335 . https://cdnsciencepub.com/doi/abs/10.1139/cjb-2020-0155?journalCode=cjb

(文責:林業領域 河合清定)
 

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